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塔の魔法使いと決死の選択

わりと仕事が落ち着きました(汗)


来週からはちょくちょく更新できると思います!!

迫り来ていた数十本の針を突如として現れた漆黒のマントが全てを弾く。弾かれた針達はマントに触れた部分が腐食しており、瞬く間に砂へとその姿を変えていった。


少年に纏われるそのマントは、闇夜の衣と呼ばれ、時に魔王を守護する盾となり、また時には矛と呼ぶに相応しい力を発揮する。


「アハハハハハ!!やっと魔王らしくなってきたじゃない!良い子ね。もっと私を楽しませてちょうだい!!」


ソフィアが狂気も隠さず、高らかに笑いながら右手を掲げると、視界一面に針が浮かび、キラキラと場違いな輝きを魅せる。


「そ、そんなバカな…。畜生!!」


喘ぐよう漏れた弱々しい声、それを拒絶するように魔王は吠えた。

力には力を!時間の許す限り剣に周囲の魔力を吸わせ、襲い来る針に黒い斬戟を飛ばす。


一閃。また一閃と剣を振るうが、次々と現れては襲い来る針を落としきれるわけもなく、魔王の努力を嘲笑う様に針が視界を埋めるた時、マントを翻しその場から掻き消えた。


膨大な数の金属が盛大にぶつかり合うことで、周囲に激しいノイズが響き渡る。


「はぁ…はぁ…はぁ。」


先程まで少年が居た場所には針の衝撃に土が抉れ、突き立つ針は無数の墓標を暗示させ、臭うはずの無い死臭に思わず身体が震えた。


「短距離転移かぁ…。そんな能力もあるのね、それ。」


血のように紅い舌で唇を軽く湿らせると、ソフィアは新しい玩具を手に入れた子供のように純粋な瞳を少年に向ける。


本来は少年がどの程度の実力を持っているか、これを確認するためだったのだが、ソフィアは既にその事がすっかり頭から抜け落ちているらしかった。


今のソフィアは、子供が興味本意で蟻の行列を踏みにじる程度の気持ちで少年の命を刈り取りかねない。そう感じたセラフィは二人の間に割って入ろうとしたところで壁のようなものに阻まれる。


力場フィールド。一般的な人の力を超越した者達であれば大なり小なり自分専用の空間を作り出すことができる。これは、ソフィアが遊びの邪魔が入らないように《希望の灯火》を施行する前に使ったもので、ソフィアに比べ遥かに魔術が劣るセラフィには到底破れる筈の無いものだった。


【マスター!このままではソフィア様は―――】


焦燥感に刈られ、ソーマへと念話を繋ごうと試みたセラフィだったが、不意に背中に感じる冷たい視線に思わず身体を硬直させる。


「無駄よ。ソーマには繋がらないから。駄目よ邪魔しちゃ…。いくら、セラっちでも許さない。」


現在《希望の灯火》による効果で、セラフィには確実に劣る能力となっているにも関わらず、セラフィの身体は蛇に睨まれた蛙の如く、身じろぎすることが叶わなかった。


セラフィの方に身体ごと向け、此方から意識が離れた一瞬の隙に魔王は音無く斬りかかる。


(殺った!)


黒い刀身がソフィアの頭を捉えんとした刹那の瞬間、剣の柄が急に止まり、視界の目の前はいつの間にか碧の何かで埋め尽くされていた。その碧はソフィアの瞳。


「ダーメ。早漏は嫌われるわよ。フフ。」


少年の振るった不可避の一撃は確かにソフィアには避けることが出来なかった。だからこそ、ソフィアは剣の柄を正確に握り、その一撃を避けるのではなく受け止めたのだった。


吐息のかかるほど近くまで顔を近付け、どこまでも優しい声音でそっと囁く。それは少年の精神を容易く砕いた。


「う…わあああああああああ!」


剣から手を離し、再び転移を用いて距離を取るが、少年の心には既に戦意は残っていない。唯一心を染める感情は、唯々醜い恐怖の感情だけだった。


「アハ、アハハハハハ!!」


醜悪な笑みを象るその表情は普段の理知的な容姿からは全くかけ離れたもので、それはさらに少年の恐怖を煽る。


背を向け必死に逃げる少年に先程手に入れた剣を投げつけるが、当たると思われた瞬間剣はその場から消えた。


思い通りにいかないことから小さく舌打ちをするが、直ぐに切り替え、数本の針を少年に向け射ち放つ。


攻撃を感知し、急遽右へ方向を変えるが、避けきれなかった一本の針が脇腹に深く突き刺さる。


「グゥ…。」


あまりの痛みに低く唸るも、足を緩めること無く懸命に足を動かす。まるで毒のように自分を蝕む何かが徐々に意識が朦朧とさせ始め、視界は段々と白く変わり出す。


【我が主たらんとするならば、汝が力を我に示せ。さすれば我は汝の真の劔となりて共に戦おう。】


唯ひたすら走るなか、どこか懐かしい声が少年の頭に響く。


「力…俺の。…力。」


【汝が力を我に示せ。さすれば我は汝の真の劔となりて共に戦おう。】


「俺は…。俺には…そんな力なんて。」


【汝が力を我に!!】


「オオオオオオオオオオオオォォォォォォォ!」


魔王はいつの間にか手に握っていた剣を高く掲げ、刃を下になるよう柄を握り変えると勢いよく自分に劔を突き立てた。


異様な雰囲気を察知したソフィアは逸速く距離を取り、剣を掲げる少年を見守っていたが、魔王がまるで自害のようなことをしたことで、自身の気分が急速に冷えていくのがわかった。


「……つまんない。あなた…とっても、つまらないわ。もういい…シネ!」


辺りを千に届く程の針が現れ、ソフィアの声を合図に一斉に射ち放たれる。


少年は、時の流れが異常に緩慢になった世界で、その光景を眺めていた。





セラフィはソフィアの強行に酷く憔悴していた。それもその筈で、星から与えられた遺跡の守護者という存在は、星の意図に反する行動をすることで生命力を容易く削られるからだ。


此の度の任務はソフィア、ソーマの二人に委ねられたことから、ソフィアが魔王を殺してしまえばソーマにも少なくない影響を及ぼすことになる。


それを理解していないはずがないソフィアが何故此処まで愚行をするのかが理解できないでいた。


自身の主に念話が出来ないのであれば直接、とも考えたが、力場による影響か、繋がりを今一ハッキリと感じることができない。


それが更にセラフィの冷静さを奪う形になっていた。


「こうなれば………。僅かでも穴を開けるしか!!」


持ちうる限り力を解放することで、六枚の白い羽が金色の輝きを放ち、外部の魔力を手元に集める。


「我が呼び声に応えよ。……聖剣、ラグナロク!!」


集めた魔力が光の粒子と変わり、粒子は徐々に形を作っていく。


セラフィは瞳を閉じて瞬間的に出せる最大の魔力を放出すると、手に握られたラグナロクを頭上に掲げ弓につがえられた矢のように一直線に不可視の壁に向かって突撃した。


鈍い金属の音が辺りに響き渡り、削られていく壁は魔力光となり消えていく。それでも壁は未だ大小の傷を負っただけで破れる気配はない。


「聖なる光よ、あしき者を悉く消し去らん槍となりて敵を貫け。術式《神天牙槍》」


身体まるごと光の槍と成り変わったセラフィの一撃は、力場に穴を空け、そのままの勢いで二人が走り去った方へと突き進んでいた。だが、不意に前方より起こった強い魔力の余波で、力場を破って解けかけていた術はガラスの割れるような音と共に崩れ去る。


強制解除のような形で破られた術は、強い魔力を宿した魔力光となり辺りに散々となるが、その全てが一瞬動きを止めたかと思うと、腹部を自身の剣で貫いた魔王へと向けて集っていく。


ソフィアの放った針よりほんの数瞬先に全ての魔力光が身体に吸い込まれると、魔王を中心に凄まじい衝撃波が突如として生まれ、辺り一帯は砂埃に覆われ、静寂に包まれた。





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