塔の魔法使いと少年
誤字脱字、表現等おかしな所があれば教えていただければと。
感想等もあれば御願いします!!
ソーマが森の泉で口内を念入りにゆすぎ、大量に書いた冷や汗を流すべく水浴びをしていると偶然にもソフィアがそう遠くない場所に転移してきた。
ソーマは怪訝な面持ちでソフィアを見ていると、ソフィアはソーマに目もくれず泉の中に頭から飛び込んだ。
あまりの速度に呆気にとられるが、直ぐに頭を冷静に働かせ、ソフィアが自分に気付く前にと魔法で身体の水を飛ばしさっさと衣服を着ていく。
泉の側で取り敢えず一服して、タバコを吸い終わる頃にやっとソフィアが泉の水面から顔を覗かせた。
その表情は普段からでは考えられないほど暗く、いつもはなるべく関わらないようにしていたのだが、思わず声を掛けてしまうほどだ。
「…何やってんだ変態女。」
「ソー…マ。」
虚ろな瞳には光はなく、ソフィアは呟く。
「私ね…どんな苦痛も大抵は笑ってやり過ごせる自信はあったの。けど……あれは無理。まさか義理の娘に早速いびられるなんて思わなかったわ。」
「言ってることはよく分からねえが、てめえが変態だってことは改めてわかった。取り敢えず今すぐその泉に沈め。」
沈痛な面持ちで何を語るのかと思って待っていたら、あまり普段と変わった様子がなかったことに思わず溜め息が漏れる。
「やだ、もう。ソーマったら。そんな心にもないこと言って。照れ屋さんなんだから。」
「しなを作ってんじゃねえ。気持ち悪い。殺すぞ。」
「いいのよ別に。私にはわかってるんだから。うふふ。」
「気色悪いこと言ってんじゃねえぞ。さっさと沈め。」
「全く…素直じゃないんだから。まあいいわ。取り敢えず今回の二人の共同作業について話をしましょ!」
いつの間にか顔色が戻り、どこか上気した様子のソフィアにソーマは全身の肌が泡立つ。
「てめえあれを食って頭まで完全にイカれたか…。取り敢えず俺の半径一メートルには絶対近寄るな!」
「触れそうでいて敢えて触れない距離を保たせるなんて……何て高等なプレ――」「術式《神雷》」
青い閃光が辺りを包み、泉の中央には巨大な水柱が上がる。その水面には一人の女性が煙を立てて浮いていた。
「何があったか知らねえが少し会わない内に更に気持ち悪くなってやがる…。今の内に本当に息の根を止めておきたいところだが…。」
いまだ冷めやらぬ背中を走る悪寒に、思わず身体を震わせる。改めて袖からタバコを取りだし、聳え立つ樹木の一つに寄りかかりながら吹かしていると、ソフィアはゆっくりと岸に上がってくる。
「いったーい。もう、ソーマったら激しすぎよ。危うく逝っちゃうところだったわ。」
「てめえが言うと下品な言葉にしか聞こえねえ。殺されたくなかったら必要以上な事は喋んな。」
「もう、そう言いたいだけなんでしょ。わかってる。」
「うぜえよ。さっさと今回の件について話せ!」
タバコを腹立たしげに噛みながら声を荒げるが、ソフィアはしょうがないといった様子で肩を竦める。その表情はどこか優しげな微笑みを携えていた。
その表情を見たソーマは逆に表情を無くしていき、ゆっくりと右手に魔力を集中させていく。
「しょ、しょうがないわね。今回の星からの指令は、新しく選ばれた魔王の保護。これはソーマも知ってるわね。」
「チッ…ああ。」
「その情報を取り敢えず私の遺跡にあるアーカイブから漁ってきたから目を通してくれる。」
それまでとは違った固い表情であまり膨らみのない胸元から何枚かの紙を取り出し手渡すと、ソーマは眼鏡を袖から取りだし資料に目を通す。
今代の魔王、その者は今からちょうど26日前に選定された。燃える様な紅い髪に澄んだ青を瞳に宿す。魔族特有の成長遅延により、齢50にしてその容姿は未だ青少年の幼さを残す。器は大器晩成型に属するため力、魔力と未だ未成熟。
性格は内向的で、生まれた時から小さな魔族の村で育ってきたため世俗については酷く疎い。その村にあった秘宝を40年前に何者かによって盗まれ、魔王に選定されてから現在はその奪還を旨に、中立国、ニルツヘルム中央都に向かっている。
魔王となってからは固有魔法を手にいれ、現在はその魔法を上手く扱えていない模様。ニルツヘルムでは既に魔王出現の報あり。巫女による予言により、ニルツヘルムには現魔王には到底抗うことの出来ない者達の存在が集まりつつあり、生き残る可能性は限りなく薄い。
未だ魔王の容姿等の情報はニルツヘルムにはないので、保護をするのであれば大至急合流されたし。
一通り流すように資料に目を通すと、ソーマは眼鏡を袖に納め小さく舌打ちをする。
「……するのであれば、か。一々勘に障る野郎だ。」
資料を掴む手に力が入り、紙に皺が広がる。ソーマはくわえているタバコの火で紙に火を点けるとそのまま燃えカスになるまで二人して眺めていた。
「それで、どうするの?」
「どうするも行くしかねえだろうがめんどくせえ。しかも、内向的だって書いてあるわりには魔王に選ばれて直ぐに中央都に向かうなんざえらく行動的じゃねえか。もう死んでんじゃねえのか。」
「そうだったら面倒がなくてよかったんだけどね。どうも未だピンピンしてるみたいよ。」
ソーマは再び小さく舌打ちすると銀龍に念話を送り、ソフィア、セラフィと三人でニルツヘルムに向かう旨を告げた。
それからは何の荷物を取るでもなく、着の身着のままの状態で三人はニルツヘルムへと足を運んだ。と言っても、転移による一瞬での移動ではなく、三人は地面を駆けていた。
一般的には信じられないほどのスピードで走る三人だが、本人達からするとその辺を軽く散策する程度のスピードでしかない。ソーマからすれば、この任務は一応遂行する姿勢は見せるが、魔王が死んでも特に構わないというスタンスなのだ。
道中、力の差がわからないほど知能の低い魔物に襲われることはあったが、特に時間を取られることもなく二時間程でニルツヘルムが一望できる丘が見えてきた。
三人はその丘に足を踏み入れると徐々に足を緩めていく。何故なら、その丘では一人の少年が、何やら紅い頭を抱えこみブツブツと呟いていたからだ。
「紅い…髪ですね。」
「そうね……魔力の感じも魔族みたい。」
「ちっ…未だ生きてやがったか。さっさと街中で暴れでもして死ねばよかったんだ。」
ソーマは悪意たっぷりに毒づきながら丘の隅に蹲り、何やら呟く少年に近付いていった。