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塔の魔法使いと養女が少女

ギリギリになってしまいました(汗)


ちょっと明日明後日と本気で死ぬほど忙しいので次回の投稿は四日か五日くらいになるかもです…


その次からはなんとか元のペースに戻せるよう頑張ります!

その日は珍しく強い眠気に誘われ、ソーマは久しぶりに自室にて眠りについた。


ゆったりと広がる微睡みの中、視界に一筋の光が射し込み、気付けば一面真っ白な空間に佇んでいた。


前後左右のみならず、上下の感覚すらあやふやな空間で、ソーマは立っているのか横になっているのかさえわからない。


そんな空間に突然ほうり込まれても慌てることなく、実に不愉快そうに口を開いた。


「毎度毎度面倒な呼び掛けをしてきやがって。殺されてえのかてめえは。」


『―――』


ソーマが不機嫌極まりない様子で毒吐くと、耳なりにも似た音を交えて男女の声がダブって頭に響き渡る。


「うぜえよ。早く用件を言え。」


『―――』


「…チッ。何で俺がそんな面倒なことをしなけりゃなんねえんだ。他の奴にやらせりゃあいいだろうが。」


『―――』


「……何?てめえ冗談抜かしてんじゃねえぞ!!何で俺があの変態女と―」『―――』


「おい!聞いてんの…か。」


ソーマの意識は徐々に暗転していき、体が重力を思い出したように落下していき、気が付くと自室のベットで横になっていた。


軽く溜め息を吐きながら身体を起こし、ベットから足を下ろしたところで部屋にノックの音が響き渡る。


ソーマはそれに反応を示すことなく、向かいの机の椅子に腰を掛け、タバコに火を点けたところで一人の少女が扉を開けた。


「もう、お父さん。居るんならちゃんと反応返してよ!居ないのかと思ったじゃない。」


「うぜえぞ。てめえももう10になってんだから一人で飯くらい食えるだろ。俺は忙しいんだよ。」


「むー。」


ファーファは不満気に頬を膨らませながらソーマに近寄ると、手に持っていたタバコを奪い取り灰皿に押し付ける。


「なにしやが―」「タバコ吸ってるだけじゃない!何処がどう忙しいのか説明してよ。全く…ほら行こ!」


ファーファに手を引かれる形で強制的に立たさたソーマは軽く舌打ちを打つと、観念したのか文句をつけるでもなく手を引かれるままに食堂まで二人で歩いていった。


食卓には既に料理が並べられており、ソーマは自分の席に向かう途中で足を止める。


「サンドイッチにグルメポークの肉のスープまでは良いが…これはなんだ?」


ソーマは、自分の定位置の前に並ぶ白いお皿の上に存在感をアピールしてやまない黒い物体Xに眉を顰め、その席の隣に控えめに佇んでいるセラフィに問い掛けた。


「ファーファ様が今朝早起きしてクッキーを焼かれたんですよ。食後のデザートにと思いまして御用意させていただきました。」


その言葉に盛大に不機嫌な様子を露にしたソーマ。ファーファはその様子に気付き、やや恥ずかしそうにソーマの袖を掴んで俯き口を開く。


「えっと…その。見た目はともかく匂いは問題はない…んだけど…。とっても甘くて…美味しい、よ。…きっと。」


後半になっていくに連れ、顔がどんどん紅潮していき、言い終える頃にはファーファの顔は既に茹で蛸のようになっていた。


【てめえ…俺が甘いのが苦手だってこの餓鬼にいつになったら教えるんだ!?】


【マスターが以前ファーファ様がお作りになったフレンチトーストを食べられた時に言えば良かったのでは?あんなに甘いフレンチトーストを食べた後に甘いのが苦手と言えだなんて、ファーファ様が御可哀想で私にはとても言えません。大丈夫。今回のは既に食べ物か怪しいところですし、あの日のと比べたら今回のは若干炭の風味が聞いてて誤魔化…美味しいはずです!】


【てめえ…段々あの変態女に似てきやがったな。糞が…。てめえはここでくびり殺す!!】


二人が念話をしていることを知らないファーファは、返事がないので恐る恐るソーマの顔を覗き見る様に見上げようとすると、不意に頭にソーマの手が被さる。


ファーファが赤面し、あたふたとしている間に大きな物音がし、音源の方へと振り向くとそこには何もなかった。いや、正確には誰も居なかった。


「…あれ?セラフィは?」


「…帰ったよ。さっさと席について飯を食え。俺もセラフィも今日は忙しいんだよ。殺すぞ。」


「お出掛け?ファーファも!?」


ファーファは嬉しそうな声を挙げるが、ソーマはそれを即座に否定する。


「てめえは留守番だ。まだ魔力を上手くコントロールできてねえだろうが。今回は間違いなく魔力を使うことになるからな。足手まといだ。」


ソーマは銀竜をミニチュアなドラゴンの形態で呼び出すと、ファーファの俯かせている頭の上に乗せる。


「まあ精々疲労で倒れねえ程度に頑張るんだな。一々暴走でもして熱を出しやがったら殺すぞ。わかったな糞餓鬼。」


「…うん。」


「……チッ。いつまでそうやってやがる。さっさと飯を食え!」


肩を落としたまま顔を上げようとしないファーファにソーマはそう声を掛けると、自分の席へと進み徐にクッキーと言う名の黒い物体Xを口に放り込む。


「っ!?」


口にいれたクッキー?を咀嚼しようとしたところでソーマの眉間に更に皺が寄る。


口に入れたそれがソーマの予想していた固さの遥か斜め上をいくものだったのだ。


外側はやっとの思いで歯が通ったかと思えば、ガリっと砂の塊を噛んだような感触に変わる。更に剥がれ落ちた炭がボロボロと口の中に押し入ってくるのだ。中からはドロッと粉を含んだ粘りが舌や歯と唇の隙間にへばりつき、飲み込まれる事なく口内に居座っている。それでいて鼻に抜けるクッキーの甘い匂いは、嫌がらせ以外のなにものでもない。ソーマは即座にコーヒを口にし、噎せた。


「グッァ!!……おい餓鬼。コーヒー…に、ゴホ…何を、ゴホゴホ…いれやがった。」


ファーファはソーマのその様子を見て、父がクッキーがあまりに美味しく、急いで食べたために欠片が気管にでも入ったのだとポジティブシンキングを発揮し、嬉々として答える。


「セラフィが甘いもの同士だと逆に甘さが消えるって教えてくれたの。なので今回はコーヒーに蜂蜜と、隠し味に黒酢を淹れてみたの!」


斜め上すぎる産物に冷や汗をかきながらも、ソーマは強靭な意思で口内の物を飲み下すが、込み上げてくる物が堪えきれずに術式《瞬間移動》を発動させ塔の外へとその身を移す。


その姿を見て、初めてファーファはもしかすると自分が作った物は美味しく無いのかもしれないと思い至り、初めて味見をするべく手を伸ばした。だが…


「やっほーソーマ、って…あれ?さっきまでここからソーマの気配がしてたんだけどな……。」


「ソフィアお姉ちゃん!?」


ソフィアが食堂の扉を勢いよく開け放って現れたことで、ファーファは手を引っ込め、ソーマが転移していったのはソフィアの気配を感知したからだと結論付けてしまった。


「ファーファちゃん。ソーマ知らない?」


「お父さん恥ずかしがり屋だから、お姉ちゃんが来る直前に転移してどっか行っちゃった。」


「え…?そうなの?……じゃあ今までのあれもこれもただの照れ隠しだったのね。ありがとうファーファちゃん。お姉ちゃんファーファちゃんの事誤解してた。これからは私の事お母さんって呼んでいいのよ!!」


何をどうしてそうなったのか興奮の極致に陥ったソフィアはファーファを強く抱き締める。


「おかあ、さん。お姉ちゃんが?……えへへ。そうなったら嬉しいな。」


モジモジしながら顔を火照らせ微笑むファーファに、ソフィアも同じく優しく微笑む。


「お姉ちゃん頑張るから応援してね!」


「うん。頑張ってね。」


「やだもー!食べちゃいたいくらい可愛い。私のちっちゃい頃にそっくりね。…あら?なんか甘い良い匂いがするわねこの部屋。」


ソフィアは、美化された自分の幼少期にファーファを照らし合わせていると、不意に甘い香りに気付く。


それが自分が作ったクッキーだと思い至ったファーファはソフィアに例のあれを薦めた。


「やだ、何?ファーファちゃんが作ったクッキー?食べるー!どれどれ?」


気分が曾てないほど上昇中のソフィアの機嫌は、ファーファが指し示したクッキーと喚ばれる物を目にした途端急降下していく。


「え……。これ?」


「うん!」


無邪気な笑顔でファーファはソフィアにクッキー?を差し出す。


ソフィアは若干笑顔をひきつらせるが、食べるといった手前、覚悟を決めて一枚手に取った。


(香りは良いのが逆に不気味だわ…。)


そんなことを考えながらクッキーを口に放り込むソフィア。その顔はまるで時が止まったように表情が固まる。


(不味い…いや、これは不味いって言うの?そもそもどうやったら食べ物の味をしてないのに香りだけはクッキーの仄かな甘い香りがするように作れるの?無理…私にはこれは飲み込めないわ。)


「ごめん…………コーヒー貰うわね。」


私には食べられない。と続けようと思ったところで、ソフィアの視界の隅にソーマが残したコーヒーが飛び込んできた。その瞬間ソフィアはコーヒーによって無理矢理飲み込むことが最善の一手だと考え、この場にあるもっとも最悪手を選んでしまったのだ。


「ひはー、ほんろほーひーにほふはふわへほへ(いやー、ほんとコーヒーによく合うわねこれ)。」


口に溜まった唾液を嚥下することすら辛い状況でなんとか誤魔化しながらコーヒーを一口含むとソフィアは目を見開きその場から即座に外へと転移した。


「お姉ちゃんもしかして………………お父さんを見つけたのかな?」


この日ファーファは、この世界における最高峰の力の持ち主である遺跡の守護者の内二人を、無自覚に戦闘不能に追いやったのだった。

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