塔の魔法使いと暴走
なんか最近一話が長い…(汗)
ファーファが瞳を赤く濡らし、森の広場から駆け出してから、後から直ぐにセラフィが追い付く。
「ファーファ様!?あまり離れられては危険です。この森は魔物が沢山おりますから、ファーファ様御一人で出歩かれるようなことがあればたちどころに襲われてしまいますと何度もお教えしたではありませんか!」
セラフィはファーファを諭しながらも、内心ではあの場から逃げ出したことを深く責めきれないでいた。
まだ幼く、魔法についての知識もなければ見たこともないファーファにとってみれば、突如として隆起した大地。自身の命を簡単に奪い去ることのできる大きな爆発などを目の前で見てしまったのだ。幼くまだ不安定なその心にどの様な衝撃だったのかセラフィには推し量ることができない。
どう宥めすかせるべきかを考えあぐねているセラフィだったが、当のファーファは全く違うことで深く傷ついていた。
「お…父さ…ん…に。お父さん、に嫌われ、ちゃった。」
赤く腫らした瞳から幾度となく涙をこぼし、震える声を絞り出すようにしてファーファは語った。
「ファーファ約束破ったから…お父さん、もうファーファ嫌い?ファーファ、お父さんにありがとうしたいだけだったのに……怒らせちゃった。もうファーファお父さんの子供、駄目。お父さんもうファーファの事、嫌いになっちゃったから。ふえぇぇえぇぇぇぇええぇ。」
そう言い終えるとファーファは大きな声をあげて泣き出した。
天使たるセラフィにとって子供の泣き声は胸を締め付けるに十分で、しかし、その純粋さは同時に胸に暖かい日溜まりのような熱を感じさせるものだった。
「ファーファ様…。大丈夫ですよ。マスターも話せばわかってくれます。例の小川まではすぐそこですから、一緒にお花を採ってその後一緒にごめんなさいしましょ。ちょっと怒られるかもしれませんが、きっと許してくれますよ。」
「……ほんと?」
「えぇ。神に誓って。ね?」
「…うん。」
二人は手を繋ぎながら小川近くに群生する花畑に着くと、色とりどりの花で指輪や花の冠を作る。
指輪はまだファーファには難しいため冠を任せたのだが見事な首飾りになってしまったのは御愛嬌だ。
そう長くない時間で作り上げ、二人して戻ろうとした時にふとこちらに近づいてくる気配にセラフィがファーファを背中に庇うような形で陣取る。
(数が多いな。先頭を走るのは人間か。それが五人。引き連れているのはドレッドベアーの群れ…か。数は六、七、八十と三匹。)
ドレッドは群れで暮らしはしても、群れ全体で狩りなどの行動を共にすることはなく、こちらから仕掛けない限りは極めて温厚な魔物だ。
そこから推し量るに、人間達が何らかの失態を犯し、群れ全体に追われるようなことになったのだろうとセラフィは考え、人間の中の一人が抱えている妙な気配で全てを理解した。
「産まれたばかりのアングリーベアーを拐ったのか。愚かな事を…。」
ドレッドベアーの群れ全体の長となるべき個体、アングリーベアー。それは群れがある程度大きくなれば何故か産まれてくると言われており、今だその理由も定かではないが今人間たちの運命は決まったようなものだ。
魔物は例外を除き殆どが長を種全体の神のように崇め奉る生き物だ。それ故に人間達がアングリーベアーを無傷でその場に置いて帰らない限りは町へ逃げようとどこまでも追ってくるだろう。
この状況になってもそれをしないと言うことは、恐らく依頼を受けての行動なのだろう。
「置いていけば不名誉を被るだけで命は助かったものを。」
ポツリと独り言のように呟くと、後ろでセラフィの纏う白い衣を掴んでいるファーファを抱きかかえ、その場を後にしようとした瞬間、その身体から急速に魔力が失われていき、ファーファを抱えきれずにその場に膝を着いた。
「セラフィ?」
透き通るような肌を蒼白に変え、驚愕を顔に張り付けているセラフィの顔を心配そうにファーファは伺うと、セラフィは両手でファーファの頬を擦り、微笑む。
「すぐ戻りますから。ここから動かないでくださいね。」
セラフィがそう言い終わると同時に、ファーファの回りは白い半透明のドームのようなものに囲まれ、セラフィは消えていった。
セラフィがその場から消えてすぐに人間とドレッドベアー達が雪崩れ込むようにファーファの居る花畑にやって来た。
「な、なんだあれは!?」
「何でも言い!!助かった。魔法使いか妖精の類いだろう。助けてくれ!!」
戦士の風貌をした軽鎧に身を包んだ男がファーファを囲う結界に気付くと異様な光景に目を丸くさせる。
一緒になって走ってはいたものの、息も絶え絶えといった感じの男はその結界から大きな力を感じとり、ファーファの元に駆け寄り始めた。
その男は杖を携え、紺のローブに身を包んでいることから魔法使いなのだろう。
「お、おい。大丈夫なのか!?ここはあの塔の森なんだぞ!?」
「まず大丈夫だ!!あの結界からは清廉な気配しかしない。」
魔法使いがそう言い切ると、残る四人の人間は顔を見合せ一つ頷く。そして魔法使いに追従するようにファーファの元に駆け寄っていった。
もちろんそんなことをドレッドベアー達が大人しく指をくわえて見ているわけもなく、後ろからは地面からは、飛来してくる土の槍や爪を象った真空波、そして多くの足音に五人は必死になってその結界に近寄るが、彼等は徐々に足を緩めていく。
「…おいおい。嘘だろう?こんな餓鬼に何が出来るって言うんだよ!!ええ!なんとか言ってみろよ!?」
皮であつらえた鎧を身に付けた男は魔法使いの襟元を掴み激昂する。
「しかし、この結界からは確かに膨大な魔力が…。」
「何やってんだいこんな時に!?そんなことはどうでもいいから結局どうするんだい?このままじゃ追い付かれて殺されちまうよ!?」
神官のような法衣をきた女性は二人の間に割って入り布に包んだ何かを持った男に問い掛ける。
その男は抱いていたものを地面に置くと、背中に担いでいた槍を手に持ち振り返り、ドレッドベアー達が放ってきた土の槍を打ち払う。
「おい、あんた!それはあんたがやったのか!?それとも仲間がやったのか?」
「それって…これの事?ファーファじゃないよ、セラフィがやったの。」
男は尚も降り注ぐ真空波や土の槍などを薙ぎ払いながらファーファに問いかけると、状況を未だに掴めないファーファは男の質問に唯々応える。
「そのセラフィさんは今どこに?」
男はこの状況に立たされて尚、なるべくファーファを刺激しないように話しかける辺り、かなり熟練した経験を持っていると伺えた。
「わかんないの…消えちゃったから。でも、すぐに戻ってくるって…。」
「聞いた通りだ。これだけの結界を張れる奴がこの近くに居てすぐにやって来るって言うんなら……ここで迎え撃つぞ!!」
槍を持った男は聞きたいことを端的に且つ分かりやすく聞き出すと、即座にそう答えを叩き出し仲間に発破を掛ける。
槍を持った男に皆は首肯をもって返事とし、結界を背中を預ける様に陣取りドレッドベアー達を迎え撃つ。
男達はそれなりに場数を踏んでおり、それ故に連携がとれた動きでドレッドベアー達を翻弄していくが、如何せん数が違いすぎる上に体力を既に消耗しているため、じりじりと体に傷を増やしていく。
皮の鎧を身に付けた男が手に付けた手甲を打ち鳴らし、三メートルに届こうかと云うドレッドベアーを次々と殴り付けていく。
更には、男が殴り飛ばした個体には追い討ちを掛けるように火や氷の矢が突き刺さる。
青白い鉄の鎧を身に纏った男も長い両手剣を巧みに使い、拳闘志の男に並ぶように眼前の敵を切りつけ、二人の隙を埋めるように槍使いが魔法使いや僧侶への敵の進行を防ぐ。
そして、僧侶であろう女は、仲間達が防ぎきれないと判断した敵の魔法を障壁を展開し退ける。
敵の四分の一を倒した辺りで魔法使いが魔力切れを仲間に告げ、そのすぐ後に仲間全体を回復させる魔法を女が掛けると僧侶である女も魔力切れを宣告した。
「や、やばいな。誰か手持ちに魔力丸を持ってないか?」
息を切らしながら槍使いが声をあげるが芳しい返事は帰ってこない。
戦いにより辺りは血に染まり、死屍累々が作られていく。
そんな光景をまだ目にしたことのないファーファが今まで声をあげなかったのは一重に恐怖からだ。
だが、拳闘志が血溜まりに足を滑らせ、体制を崩したその時均衡は破られた。
鋭い爪を持つドレッドベアーの一撃が男の腹を抉ったのだ。
「「「「マルス!?」」」」
仲間達は拳闘志マルスに群がろうとするドレッドベアーを打ち払うと一斉に駆け寄る。
仲間の危機による男たちの火事場のクソ力にも似た力のお陰で再び奇妙な均衡が互いに生まれ、お互いがお互いを牽制しあう形に戦いが固まる。
「い、いやああああぁぁぁぁぁぁぁあぁああ!!!!!」
しかし、その均衡は予想もしないところから崩されることとなった。
ファーファの精神に、その光景は限界をきたすには十分で、ファーファは辺りを振動させるほどの叫び声をあげる。
「な、なんだ。」
「この馬鹿げた声量はなんだい?頭が割れちまうよ!?」
セラフィが張っていた結界は本人の手を一度離れているため、徐々にその力を失いつつある。
だが、ドレッドベアー程度ではまだ破れるほど柔なものではなかったにも関わらず、その結界は急速に透明度を増していき、最後は音もなく消えてしまった。
結界がファーファから放たれる振動波に耐えきることができなかったのだ。
セラフィの結界が消えた途端、ファーファの声はさらに膨大な音の渦となってその場に押し流されていく。
「ぐああぁぁぁぁ!?」
「に、人間がこんなことができんのかい?」
「や、やっぱり妖精種かなんかなんだよ!!」
「そんなことよりどうすんだよリーダー!?」
皆が皆耳を塞ぎ顔をしかめながらなんとか仲間同士の声を拾う。
本人達は全力で声を出しているにも関わらずほとんど聞こえていない。が、そこは長年の付き合いで何となくではあるが意思の疎通が出来ていた。
ドレッドベアー達は臆病な分耳が良い為、苦しみのあまりその場に次々と倒れていくが、産まれたばかりのアングリーベアーは全身の毛を赤く輝かせ、ファーファに向かってゆっくりと、低い唸り声をあげながら近づいていった。
アングリーとベアーは言うまでもないかと思うのですが、怒る、熊。ドレッドは恐れるとかそんな感じの意味です。
え?まんまじゃないかって?
モンスター名前考えるの難しいんぞ!?
誰か教えてください!(笑)
追伸 ちなみにドレッド君は毛並みは茶色、アングリー君は赤色です。
追伸の追伸 昨日ほとんど寝てないんでテンションがおかしいので色々突っ込みどころがあるかとは思います。是非ともご指摘願いますm(__)m