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鉄の塊と、優しいブレーキ

作者: 遊ぶ人
掲載日:2026/07/17

鉄の塊と、優しいブレーキ

 鉄の塊と、優しいブレーキ


「危ない!」


 心臓が跳ね上がる。


 目の前を通り過ぎたのは、ベージュ色の箱型車。


 ナンバーは確か「????」だった。


 あと数センチ。ほんの少し踏み出すのが早ければ、私の右足はあの巨大なタイヤの下敷きになっていただ

 ろう。


 アスファルトを転がる鉄の塊。


 その恐ろしさを、運転席の女性ドライバーは分かっているのだろうか。


 車に足を踏まれる人間の恐怖や痛みを、想像したことがあるのだろうか。


 怒りと恐怖で、しばらく足の震えが止まらなかった。


 それから一週間。私は再び同じ交差点の前に立っていた。


 雨の降る、視界の悪い夕暮れ時。


「あ……」


 見覚えのあるベージュ色の車体が、こちらへ向かって走ってくる。


 あの


「????」


 だ。


 私は思わず、一歩後ろへ身を引いた。


 しかし、車は交差点を前に、驚くほど手前でなめらかに減速した。


 横断歩道を渡ろうとしていた小さな子供と母親に気づき、完全に停止したのだ。ワイパーの向こうに見え

 る女性ドライバーは、優しく微笑みながら、歩行者へ「お先にどうぞ」と手で合図を送っていた。


 鉄の塊を動かすのは、人間だ。凶器にもなれば、優しい移動手段にもなる。


 先週のあれは、きっと何かの見落としだったのだろう。


 それでも、誰もがいつでも、あの鉄の重みを忘れないドライバーであってほしい。


 遠ざかるベージュ色のテールランプを見送りながら、私は自分の右足へと視線を落とし、深く息を吐き出

 した。

気楽に読んで。

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