鉄の塊と、優しいブレーキ
鉄の塊と、優しいブレーキ
鉄の塊と、優しいブレーキ
「危ない!」
心臓が跳ね上がる。
目の前を通り過ぎたのは、ベージュ色の箱型車。
ナンバーは確か「????」だった。
あと数センチ。ほんの少し踏み出すのが早ければ、私の右足はあの巨大なタイヤの下敷きになっていただ
ろう。
アスファルトを転がる鉄の塊。
その恐ろしさを、運転席の女性ドライバーは分かっているのだろうか。
車に足を踏まれる人間の恐怖や痛みを、想像したことがあるのだろうか。
怒りと恐怖で、しばらく足の震えが止まらなかった。
それから一週間。私は再び同じ交差点の前に立っていた。
雨の降る、視界の悪い夕暮れ時。
「あ……」
見覚えのあるベージュ色の車体が、こちらへ向かって走ってくる。
あの
「????」
だ。
私は思わず、一歩後ろへ身を引いた。
しかし、車は交差点を前に、驚くほど手前でなめらかに減速した。
横断歩道を渡ろうとしていた小さな子供と母親に気づき、完全に停止したのだ。ワイパーの向こうに見え
る女性ドライバーは、優しく微笑みながら、歩行者へ「お先にどうぞ」と手で合図を送っていた。
鉄の塊を動かすのは、人間だ。凶器にもなれば、優しい移動手段にもなる。
先週のあれは、きっと何かの見落としだったのだろう。
それでも、誰もがいつでも、あの鉄の重みを忘れないドライバーであってほしい。
遠ざかるベージュ色のテールランプを見送りながら、私は自分の右足へと視線を落とし、深く息を吐き出
した。
気楽に読んで。




