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クロード家の云々  作者: カキちゃん
第四章 
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第83話「痕跡を辿って…」


「ネズミね…」


面会を終えて戻ってきたミオナは、ルカの発言を一通りシュティーに伝え終えたところだった。


「ネズミが、ただの隠語とは思えないんだよね。実際アラタもインダストラの調査のとき、排気口の一部が破壊されてて、“ネズミくらいの小動物なら入り込める”って言ってたし」


「つまり…ルカさんは、相手――売人が“ネズミの能力者”だと伝えた、ってことでしょうか?」


「それもあると思う。ただ重要なのは他の言葉。“餌が尽きると別の場所に移動する”と“歯を削るために建材をかじる”恐らくこれは、“売人は基本的に移動しながらブースターを売りさばいている”って意味。まあ、売人じゃなくて“ブースターそのものの流通”を指してる可能性もゼロじゃないけどね。それに、建材をかじるってことは、目に見えて分かる“痕跡”が残ってるはず」


「なるほど…」


ミオナは、小さく頷く。


「一応、アラタが相記化からの情報を解析し終えてるはずだから、戻ってから作戦会議だね」


シュティーとミオナは拠点へと戻る。


拠点


「アラター? 解析終わったー?」


扉を開けるなり、シュティーはアラタの進捗を確認する。


「あー、終わったは終わったがな。期待しすぎると肩透かしくらうぞ?」


アラタはノートパソコンの画面をこちらに向け、音声を再生しながら淡々と解説していく。


「まず、換気口に流れる風の音に混じって、小さく走るような音が入ってる。たぶん小動物か何かだろうな。次に、ルカと謎の男の会話。声の反響と部屋の大きさを考慮して、男の身長は170〜180センチ。だが誤差がデカすぎる。音声だけで特定するのは不可能だ」


「そっか…」


シュティーは、わかりやすく肩を落とした。


「それで? ルカには会ってきたんだろ? 何か情報は?」


「それがね、ネズミがどうとか…」


ミオナが面会での会話を、アラタに詳しく伝える。


「ふむ。刑務所じゃストレートに話せないからな。色々ケアした言い方になったわけか。ただ、薄くもないな。有力情報の“入り口”くらいにはなる」


「でも、今さらインダストラで調査はしづらい、ってところだね」


「だな。現場はもうCIDの管轄だし」


「一応、やれることはやってみるよ。アラタが解析した情報から正体を絞れないか、エルメルに連絡してみる」


「あの氷結野郎にか?」


「CIDには聞けないし、エルメルならワンチャンあるかなって」


「仕方ないか…」


「ルカの発言も踏まえて、アラタには“これまでのブースター絡みの事件”を洗ってほしい。“ネズミの痕跡”が残ってる事件があるかもしれない」


「了解〜。地道作業だな」


「私は…何をすれば良いですか?」


「ミオナちゃんは、とりあえず待機かな。今は動く場所がないし」


「…わかりました」


今のところ決定打はない。

それでも、少しずつ包囲網が狭まっている感覚だけはあった。


プルルルルル…


「……私だが。何用だ、シュティー・クロード」


電話越しに聞こえる、冷え切った声。


「ちょっと調べてほしいことがあってね」


「断る」


「まだ何も言ってないんだけど?」


「悪に力を貸すようでは所長は務まらんのでな」


「へぇ…。最近巷を騒がせているブースターを売っている連中、その“手掛かり”になりそうな情報なんだけど?」


「……本当か?」


「お、食いついた。本当だよ」


「ひとまず、話は聞こう」


そこで、シュティーはインダストラでの事件の顛末、ルカの発言、相記化から解析された情報を一通り説明する。


「ふむ……それで“該当する人物”を探せと?」


「そう。身長は誤差が大きいからアテにできない。調べてほしいのは“ネズミになる能力者”、もしくは“小動物に化ける能力者”」


「獣化系の能力者は比較的多い。特定には、相応の時間が必要だ。それに――私の権限では、詳しい調査はできん」


「え?」


「私は監獄島の所長であって、CIDの上層ではない。CIDに登録されている能力者リストに自由にアクセスはできん。調べられるのは“過去の能力犯罪者”のデータまでだ」


エルメルに頼めば何か掴める――そう思っていた分、その返答は重かった。

シュティーは、思わず無言になる。


一方で、アラタはこれまでのブースター事件を洗ってくれてはいるものの、それだけで売人に辿り着ける可能性は低い。


(あたし)が調べようか?」


「静かにしろミルム。……って、おい」


「シューちゃん聞こえるー?」


どうやら勝手に電話を横取りしたらしい。


「聞こえてるよ。ミルムが調べてくれるって、本当?」


「本当本当。エルたんより現場の実績あるし、CIDから派遣されて来たこともあるからさ〜。“公式には内緒で”なら、私の方がそれとなく調べられるよ?」


「そうか……助かる」


「全然いいよ〜。シューちゃん良い子だから、協力してあげないとね♪」


「じゃあお願い。今度また島に行くとき、手土産でも持っていくよ」


「マジ? じゃあお菓子! 甘いのね! エルたんも食べるから!」


「ははっ…了解。それじゃ、よろしく」


「はーい、じゃあね〜」


ピッ


「ミルム…本当に助かるな…」


軽口を交わしながらも、胸の奥では確かな安堵が広がっていた。

シュティーは、改めて“監獄島の二人の優しさ”に救われていることを痛感する。


監獄島


「おい、ミルム。何を勝手に話を進めている」


「え〜? 良くない? 今の状況を終わらせたいのは同じじゃん?」


「はぁ……最近CIDでは“クロード家優遇”の噂が出始めている。これ以上関わるのは、お前のためにもならん」


「心配してくれるの? ありがと、エルたん♪」


「……はぁ。先が思いやられる」


エルメルの嘆息が、凍てつく監獄島の空気に白くほどけていった。

その一方で、“ネズミの痕跡”を辿るための輪は、静かに動き始めていた。

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