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クロード家の云々  作者: カキちゃん
第四章 
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第82話「面会」


ヨナの能力《変容》——自身または他者の外見を、整形レベルで改変する力。

効果は最大三時間。


ヨナがミオナの頬に手を当て、粘土を練るようにゆっくりと撫でるたび、顔の輪郭がじわじわと変わっていく。

肌の質感、目元のバランス、唇の形――わずかな変化が積み重なり、まるで別人の顔がそこに現れた。


「凄い能力ですね…」


「“裏の仕事”でしか使ってないけどね。それに変えられるのはあくまで外見だけ。性格も癖も、行動までは変えられないから、そこは本人の腕次第」


「完全無欠の能力ではないから、いざとなったら逃げてほしいかな」


「わ、わかりました」


緊張でこわばるミオナの肩を、ヨナは軽く叩いた。


「肩の力を抜いて。完璧を目指すと逆に怪しまれる。潜入するのは刑務所だ、上手な芝居より“自然体”のほうがずっと信じられるよ」


ヨナの微笑みは、職人の余裕を滲ませていた。


「ありがとうございます…!」


「はい、終了」


ヨナが鏡を向ける。

映っていたのは、もはやミオナではなかった。

頬のライン、瞳の色、鼻筋。誰もが振り返る別人の顔が、そこに立っていた。


「すご…全然私じゃないですね」


「持続は三時間。解除はゆっくり進むから、戻り始めたらすぐ引き上げてね」


「わかりました」


「ありがとうヨナさん。支払いはいつも通りで」


「うん、任せといて」


ヨナの穏やかな笑みが返る。


「よーし、じゃあミオナちゃん。サクッとルカに会いに行こうー」


「はい!」


  


シュティーとミオナはバスで、ルカが収監されている刑務所へ向かった。


「本当に大丈夫ですかね…?」


「ちょっと疑われるくらいなら平気。ミオナちゃんだし、なんとかなる!」


「……頑張ります!」


「うん。それと――これがミオナちゃんの偽名ね」


シュティーが差し出した書類をミオナが受け取る。


「リタ・テレーザ・セレーナ・フェリーニ?」


「そう。頭文字を取って“R.T.S”で通じると思う。それと身分証と家族証明。全部偽造だけど、かなり精巧にできてるよ」


「いつのまに…」


「昨日の夜、アラタに作ってもらった。罪の作成が終わって、音声解析に入る前にね」


「アラタさん、仕事早いですね…」


「でも完璧じゃないから、もし質問されたら書類を読みながら答えて。焦らなければ大丈夫」


「わかりました、頑張ります!」


「よろしくね。ボクは刑務所の前で適当に暇潰してるから」


「はい!」


ミオナは刑務所の重い門へと歩を進めた。


  


「こんにちは…?」


受付に声をかけるミオナ。どこかぎこちない。


「こんにちは。ご用件を?」


「えっと、面会に来たんですが…」


「ご予約は?」


「はい。ルカ・フェリーニに面会の予約をしています」


受付係は淡々とキーを叩き、画面を確認する。


「たしかにご家族の方ですね。申し訳ありませんが、身分証と家族証明書を拝見しても?」


「はい、こちらです」


シュティーから渡された書類を差し出す。


係員は目を通し、少しして顔を上げた。


「確認いたしました。ルカ・フェリーニの妹様、リタ・テレーザ・セレーナ・フェリーニ様で間違いないですね?」


「はい! 間違いないです!」


(よかった、上手くいった…)


「では面会室へご案内します」


看守が現れ、無言で先を歩く。

ミオナは指示に従い、荷物を預け、金属探知機を通過した。


「囚人への受け渡し、接触は禁止です。違反があれば面会は即終了となります」


「わかりました」


重い扉が開く。

その先には、俯いたまま座るルカの姿。


ルカがゆっくりと顔を上げ、ミオナと視線を合わせる。


「えっと…久しぶり、兄さん」


「……?」


“誰だお前”――そんな表情。

だが面会室には監視カメラ。声は拾われていないが、挙動ひとつで不審を悟られる。


「私、リタ。リタ・テレーザ・セレーナだけど…覚えてない?」


ルカは一瞬目を伏せ、やがて意味ありげに頷いた。

「なるほど」と言わんばかりの顔。


「そうだな。僕には妹がいたな」


嘘。

ミオナには、それがはっきり分かった。

つまり――話をしてくれるという合図。


(ここは演技を続けないと…)


「ごめんね、あまり連絡取れなくて。そのせいで兄さんは…」


「大丈夫。職場と寮は電波遮断されてたから、どうせ連絡は取れなかった。気にするな」


「そっか…。それでね、今日いろいろ伝えたくて。兄さんが捕まったって聞いた時、お母さん、すごく落ち込んでた。でも兄さんが元気にしてるって知れば、きっと元気になると思うの」


実際には、息子が逮捕された家族が“元気になる”ことなどない。

けれどミオナは、それでもそう言わずにはいられなかった。


「…そうだね。母さんには伝えてくれ、“元気だ”って」


「……うん、約束する」


言葉と同時に、ミオナの目から一粒の涙が零れた。

演技か、それとも心からの涙か。彼女自身にもわからなかった。


「リタも忙しいだろ。まだ時間はあるけど、今日はこのへんで」


「ちょっと待って! まだ聞きたいことが――」


だがルカは静かに遮る。

面会の本来の目的――売人の手掛かり。

それを得ずに帰るわけにはいかない。


ルカは小さく息を吸い、囁くように言った。


「ネズミは、食べ物がなければ二〜四日で餓死する。

 だから餌が尽きると、別の場所に移動する。

 それと――ネズミは歯を削るために建材をかじる。

 痕跡はある、注意して見ることだね」


それだけ言って、立ち上がった。


ミオナは、去っていく背中を見送る。

ルカは振り返らず、扉の奥に消えた。


静まり返った面会室に、ミオナの声だけが残る。


「……ネズミ、か。」


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