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クロード家の云々  作者: カキちゃん
第四章 
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第81話「ネズミ一匹」

インダストラの精密工場での一件を終え、シュティーは売人の足取りを追っていた。だが、圧倒的に情報が少ない。

アラタが追体験で見た記憶も、売人へ直結するものではない。

相記化に蓄積された声の断片はあるが、相記化に触れなければ情報を読み出せず、外部解析も不可能――袋小路だ。


「せめて相記化の情報を移せたらな…」


移せるのなら、声質から大まかな特徴くらいは割り出せる。正確ではなくとも手掛かりにはなる。

熟考の末、ひとつの考えが浮かぶ。


「アラター?」


呼び出しに応じて、アラタが姿を見せた。


「どうした?」


「新しい罪を追加してほしいんだけど、そうだね、記録媒体から別の記録媒体へ“記録/情報を移す”罪って作れる?」


「相記化の情報を抜くためか?」


「うん。情報があっても今は特定に繋がらない。だから“繋げるための道”を作る」


「いいが、罪を作るのは時間がかかるぞ。そこから解析となると相当…」


「わかってる。それを踏まえてお願いできるかな?」


「なに言ってんだ。命令とあれば動くのが俺達だぜ?」


任せろと言わんばかりの顔。シュティーは微笑んだ。


「じゃあ、よろしくね」


アラタはその場を後にし、新たな罪の制作に向かう。


「よーし。アラタが罪を作って解析してる間に、ボク達もしっかり動かないとね」


(とはいえ、有力な線は今のところ相記化だけ。最近のブースター絡みの事件を洗っても繋がらない。やっぱり一番の可能性は――ルカから直接、情報を聞くこと…)


「そういえば、ルカってあの後どうなったの?」


「お嬢が対峙したルカって奴なら、CIDに連行されて、裁判の後に刑務所だ」


ディノが答える。


「監獄島じゃなくて、一般の刑務所?」


「そうだ。能力は微弱で、脅威にはならないと判断されたらしい」


「うーん、困ったな。監獄島ならエルメルに連絡してルカと話せるのに。顔が割れてるボク達は、面会を申し込んでも通らないだろうね。今回の一件でもう尚更…」


「顔が割れてないのが一人いるだろ?」


ディノの視線が、おもむろにミオナへ向く。


「わ、私ですか?」


「たしかに…ミオナちゃんなら、妹って設定で面会に通れるかも。でも、いきなり“売人の情報を教えて”は無理」


看守が同席する面会で、直球は通らない。

そこでミオナが遠慮がちに手を挙げる。


「偽名を使うのはどうですか?」


「偽名?」


「はい。ルカさんは精密工場の人で、シュティーさんと戦った時も専門知識で能力を捌いたと聞きました。だったら、偽名にそれっぽい“電気系の用語”を入れて、会話の中に質問を紛れ込ませる。看守さんに悟られずに、本題へ誘導できるかもしれません。…それに私の能力なら、相手に“逆”を言ってもらうことも」


「…ミオナちゃん…」


シュティーは歩み寄り、勢いよくその頭を撫で回した。


「いいねそれ! 採用!」


「あ、ありがとうございます!」


くすぐったそうに目を細めるミオナ。


「でも偽名か…直接的なのは危険だよね。例えば頭文字を拾うとか、意味が二重になる名前とか…」


「そうですね。私達も専門家ってわけではありませんし…」


「偽名は後で詰めるとして、次は作戦だ。受付で弾かれる可能性が高い。ミオナちゃんとルカは完全に他人だし。義理の兄妹設定にしても、どこか顔立ちの“共通点”が必要になる」


「でも、顔を変えるなんて…整形は時間が…」


「大丈夫、安心して。ミオナちゃんの可愛い顔を、整形なんて荒業で崩したりしないから」


シュティーはニコッと笑って答えた。



数日後。

シュティーとミオナはソルズカ本土の、とある美容室を訪れていた。

ガラス張りの店内に、高演色の照明が白く行き渡る。予約は常に満席――ソルズカでも指折りの店だ。


チリンと鳴るドアベル。 


「いらっしゃい」


出迎えたのは物腰の柔らかい男性。黒髪はサイドを刈り上げ、後ろは長めに束ねている。耳と唇のピアスがきらりと光った。


「久しぶりだね、ヨナさん。店の方は順調?」


「それなりにね。今日は特別なお客様のために一日オフだから安心して。それで――今日のお客様は、そちらのお嬢さん?」


「は、はい。よろしくお願いします…」


洒落た空気に、ミオナは少しだけ緊張を滲ませる。


「大丈夫だよミオナちゃん。ヨナさんは、ソルズカ――というか世界的にも名の知れた一流スタイリストだから」


「はい…でも、そのスタイリストさんが今回の潜入と、どう関係が…?」


「ヨナさん“Nocturne”」


「かしこまりました。では、こちらへ」


ヨナの手招きに従い、二人は奥へ。

鏡の並ぶフロアを抜け、静かな扉をひとつ。

その先――美容室とは別世界の、音を吸うような裏部屋へと足を踏み入れた。


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