第80話「白昼の雷霆」Part2
ルカの電撃が繰り返される。アラタは遮断で相殺しながら一定の距離を保つ。
アラタがマントを手に放すと同時に、遮断が解除される。
「ギルティ、三位一体…セット、遮断、呪鎖、再生」
マントが出現する。
「ほらよ」
アラタはシュティーにマントを渡す。
「これが裏技?」
「三位一体にセットすれば、手から離れても遮断は解除されない、俺は再生でどうにかなるが、ボスは防御手段がないからな」
「ありがとう、じゃあ攻めるとしますか」
シュティーの合図と共に駆け出す、猛襲を遮断で相殺しながら詰め寄る。
ルカが後方に距離を取る。
アラタはすかさず、掌から呪鎖を射出、呪鎖はルカの腕に絡みつき、ルカを引き寄せる。
ルカは見えない鎖に引き寄せられたが、気にせず電撃をする。
電撃は鎖を伝い、アラタ方へと向かう。
「ぐっ……」
電撃はアラタに直撃するが、再生でどうにか耐えている。
「大丈夫!?」
「あ、あぁ…ただこのまま出力が上がると…まずいな…即死は再生に適応されない…」
シュティーはルカに猛突進、渾身のタックルをかます。そして腹部に瘴気を流し込む。
ルカは後方に吹っ飛びながら腹部を確認する。ニヤリと笑うと、
ルカは、臍の右下と左腰に指を当てた。髪がわずかに逆立ち、空気が乾く。皮膚の下で黒いものがざわりと寄り、臍の縁に“汗のような靄”が滲む。紫の火花がぱちりと弾け、工場に染み付いたオゾンの匂いが濃くなる。靄は粒になって、イオン風に押されるみたいに散った。
「へぇ…瘴気がこんな風に対処されるとはね」
ルカが瞬間的にした対処、それは逆イオントフォレーシスとコロナ放電を利用した低温プラズマ殺菌。
右手と左手を心臓を跨がない位置に置き、弱い直流で腹部に緩い電位勾配を生成、瘴気を皮下へと寄せ、表層に黒い汗靄がにじんだ後、コロナ滅菌により不活化。
微弱な能力だが、精密工場勤務で身につけた電気の扱いは、ブースターにより実戦レベルとなっている。
「いい技術力持ってるじゃん、でも何回も出来るわけではないでしょ?指先が赤くなってる、多分腹部も同じ感じだろうね、それに息が切れてる感じするし」
電気能力者と言えど電気による影響は免れない、しかし執念がルカを動かすのか気にしない素振りを見せる。
「お前が誰か知らないが…この世には許せない者がいるんだよ…僕達みたいな弱き者を虐げる者がッ…!」
「ふーん?でもそれで君が人を殺したら、同じでしょ?」
「そうだね……だとしても、そうだとしても、僕は絶対に許さない…」
「気持ちは理解できるよ、でもこれ以上君に誰かを殺させたくないかな」
「じゃあ、君が止めてくれるかな?」
ルカは出力を上げて電撃を放つ。電撃は四方八方に広がり、流れる。高圧電流を流された電気系統は連鎖的に小規模の爆発を引き起こす。だがルカは更に出力を上げていく。
「まずいな、そろそろ遮断でも相殺できなくなる、近づく事は不可能だ」
「アラタ…ここ一帯の従業員や人を出来るだけ遠くに離してくれる?あと出来たら迅速に熱いお湯でも用意してほしい」
シュティーの目は固い決意を宿す。
「……わかった」
アラタは外へと向かう。
「ふぅ…正直これだけはしたくなかった、今なら空気清浄機が機能するはず、君が壊す前に終わらせるよ」
シュティーは手袋を外す。シュティーは手から発生する瘴気を“空気”に流す。瘴気は空気に瞬時に伝播していく。
これがシュティーの奥の手であり、最も使いたくない技。
瘴気を空気に流す事で、空気を穢す。吸い込むだけで体内から瘴気で穢される、先手必勝かつ広域制圧を可能とするが、シュティーは家族や一般人も巻き込む為、使いたくなかったのだ。
「ぐっ…カハッ…」
ルカは喉を押さえて血を吐く。電撃が収まりルカはその場に倒れる。
穢された空気は、空気清浄機により霧散していく。
「良かった…まだ動く…」
シュティーはルカを見る。死んではないが苦しんでいる様子。
シュティーは携帯を取り出す。
「もしもし?空気清浄機はしっかり稼働しているから、入ってきていいよ、一応再生をセットした方がいいかも」
数十秒後アラタが入ってくる。アラタの手にはポットが握られている。
「少し火傷するけど我慢してね」
シュティーはルカの口にお湯を流し込む。ルカは熱さで暴れるがアラタが押さえる。
熱さはあるが、体内に流れた瘴気を消すにはこれしかない。
ルカはぐったりしたように気絶していた。
「よし…ひとまず処置は大丈夫だね」
「一応事情は伝えたが、数分したらCIDが中に入ってくる。その前に」
「うん、追体験で確認して、ブースターの受け渡し人を。多分直前にブースターを渡した者の姿も捉えられるかも」
「わかった、ギルティ…三位一体…セット、追体験」
三位一体の効果で追体験可能の範囲を拡大させる。
ルカの記憶を読み取る。
上の換気口から落とされる銀色の筒、ルカが日常的に虐めを受けている様子、ルカが倉庫エリアで薄汚れたローブと仮面を被る者と話す姿、そしてその者に白い封筒を渡す、そして発端である最初の殺人、社長が処理してくれるという会話。
「読み取れたが、、」
「どうかした?」
「いや、手掛かりになりそうな事がなくてな。換気口から落とされるブースター、倉庫エリアで話してる奴はローブと仮面で特定は出来ない。そいつに白い封筒を渡してた、金か手紙か、前者が濃厚だな」
「そう…でも一応解決ってところだね。現行犯ではあるから後はCIDに任せて、アラタが読み取った記憶を頼りに調査だね」
数分後、CIDの部隊が工場内に入ってくる。シュティー達は秘書の計らいで速やかに退散していた。そして、工場の社長と顔を合わせる。
「どうかな社長さん、隠したかった事が暴かれた今の気持ちは?」
シュティーは怒気を孕んだ声で煽る。
「クソ共が…まぁいい、あれが犠牲になってくれれば」
「犠牲ね、この事件の事は世に出ると思うけど、それでも平気?」
「フッ、まだ分かってないようだな?今回はただの従業員の暴走と処理される。たかが虫一匹の発言なんていくらでも捏造出来る」
「捏造…つまり会社の実態を隠せると?」
「当然だが?ルカが殺した従業員の事は明るみにならず、今回の事もCIDが上手いことやってくれる」
「……犠牲者を生んどいて、どの口が言ってるのかな?」
「お前は会社が悪くて犠牲者が生まれたと思ってるのか?それは違うな。アイツが生贄らしく、おとなしくしていれば、ここまで大きくならなかった。これだから心の弱いやつは困るな」
社長の言葉を聞き、シュティーは怒りを収める。それは許したわけではなく、もう何を話しても無駄だと言うことを理解したからだ。
「帰ろうアラタ、こんな無駄な事してる暇ないよ」
「あぁ…」
シュティーは行き場のない怒りを抱えたままその場を後にする。
今回の一番の犠牲者はルカ本人だ。劣悪な環境での虐めに耐えていた。誰にも救われる事はなく、怨みは募る一方。そこに救いの様に訪れた者が差し伸べたのはブースターという、破滅の根源。シュティーは改めてブースターそして、それを作り売るものを嫌悪した。




