第76話「怨念の種」Part1
「そういえば、社長の記憶、見たんだよね? 犯人の顔とか分からなかったの?」 シュティーがおもむろに尋ねる。
「追体験は“記憶を見る”だけだ。相手が忘れてたり、都合よく改竄して覚えてたら、正確には拾えない」
「つまり分からなかったと」
「社長も“無かったこと”にしたいんだろうな」
「なるほどね。じゃあ相記化は――社長室と工場。あとは……社員寮にも植えて」
この工場は寮を併設し、一定数の従業員はそこから通っている。
シュティーは考える。社長が言ったのは「機械の故障による事故」。だがアラタの追体験で視た光景は、恐らく夜。夜間に点検? いずれにせよ、被害者は“おびき出された”か“追い詰められた”形だ。そこで頭部を貫通させるほどの一撃――能力による殺害。社長が何故その場にいたのかは不明だが、筋は通る。 そして夜のインダストラは警備が厳しい。車両の規制もあり、遠方からの侵入はほぼ不可能。ならば“近くに住む者”――社員寮の誰か、という結論になる。
「とりあえず、バレない場所に植えてくる。三位一体――」
アラタは擬態をセットし、音もなく工場へ消えた。
「ふぅ……さてと。それでさっきからボクたちのこと、見てるけど――誰かな?」 シュティーは視線だけで呼びかける。建屋の陰から、秘書の女がすっと現れた。
「話がある。それもボクだけに。そうでしょ?」
「貴女なら、信用できると思いまして……」
「まあ、アラタは“アレ”だからね。それで、話は?」
「“犯人”についてです」
「社長は知らない、って言い切れる? ボクを嵌める罠かもしれないし」
「今回は私の独断です。仮に露見しても、矛先がシュティー様に向かないよう動きます」
「オッケー。じゃあ移動しよ。ここは目立つ」
秘書の案内で、郊外の喫茶店へ。個室で念入りに周囲を確認してから、口火を切らせる。
「犯人は――ルカ・フェリーニ。従業員です。能力は“静電放出”。微弱な電気を発生させるだけ。他の電気系に比べて、せいぜい“強い静電気”の域です」
秘書は唇を噛む。
「社長も彼が犯人なのは知っています。ただ――どうやって殺したのかが不明でした。工場の器具を使った形跡はなく、あまりに精密な電撃で致命傷が……あの能力でそこまでの殺傷は、ありえないはずなのに」
「――ブースター、ってことでしょ?」
「……はい。恐らく。確証ではありませんが、インダストラでも出回っているという話はあります」
「日頃のストレスで手を出し、そして殺害。――動機は?」
「…………」
秘書は口を噤む。
「言えないね。いいよ。情報は十分」
シュティーは肩を竦める。
「それで、ここからボクに何を? 犯人が分かったなら今すぐ確保もできる。でもCIDすら隠蔽に回るなら、現行犯以外は難しい。仮に捕まえても、“工場の体制”は変わらない」
「……そう、ですね。でも――」
「連鎖を止めたい。でしょ?」
射抜くような眼差しに、秘書は小さく頷いた。背信に等しい告白を押し出す声は、必死で、嘘がない。
「よーし。ちょっと頑張ってみるよ」
シュティーは柔らかく微笑んだ。




