第75話「煙は口を噤む」Part3
工場内部を調べて回るアラタ。ラインの駆動音に混じって、人の声が絶えない。ここで働くのはほとんどが電気系能力者だ。医療系と並んで引く手数多、この工場でも、電気系能力者が主に作業を回し、非能力者は雑務に回る。笑い声が軽く響き、手は休まないまま世間話が続く。
(ここで殺しか…)
一見、変わったところはない。至って普通の工場――
(いや、普通すぎるな)
事件の直後だというのに、空気にひびが入っていない。不信も恐怖も滲まない。まるで「何も起きていない」と言い聞かせ合っているような均一さに、アラタは薄ら寒い違和感を覚えた。
視線を滑らせる。ラインの隅、誰とも言葉を交わさず黙々と手を動かす従業員がいる。周りの数人が遠巻きに見ては、くすくすと笑った。やがてその集団が、隅の男に絡み始める。
「おーい、静電気マン。あれ、運んどいてくれない?」
顎でしゃくった先には、明らかな重量物。
呼ばれた男は、拒むでもなくこくりと頷いた。胸の名札に「ルカ」。陰のさす雰囲気、濃いクマ。眠れていないのが一目で分かる。
「また機械壊すなよ〜。ほら、ぴりぴりって」
嘲りが混じる。ルカは顔を強張らせたまま、ふらつく足取りで重量物に手をかけた。誰も手は貸さない。
(はぁ……どこも同じだな)
アラタは、それでも見守るしかできない。腐敗を放置した組織が、いつか音を立てて崩れるのを何度も見てきた。小さくため息を落とし、腕時計に目を落とす。
(……そろそろか)
工場を離れ、外へ出る。
「三位一体、解除――ふぅ」
空気が身体に戻る。掴めたのは、ここに“何か”があるという確信だけ。死因は頭部を何かで貫かれて死亡。電気系能力者が多いこの職場で、もし電撃が原因なら特定は難しい。
「一旦、ボス待ちだな」
一時間後。小さな鉢を抱え、シュティーがやって来た。
「どう、アラタ。何か分かったことはある?」
アラタは見たままを手短に伝える。
「なるほどね。電気系が多いのは予測してたけど、犯人は絞りにくそうだね。ひとりひとり聞き込み、なんてのも現実的じゃないし」
「そうだな」
「――ということで、はい、これ」
シュティーは鉢から種をつまみ上げる。
「相記化か。言ってくれりゃ、最初に情報取りに行くとき一緒に買ってきたのに」
「必要ないかなって思ってたけど、今回はこれが決め手になるかもね。アラタは“気になった場所”に植えてきて。できるだけ情報の多そうなところに」
「了解」




