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クロード家の云々  作者: カキちゃん
第三章 
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第70話「暗闇に笑う」Part5

 しなりを利かせた穂先が空を切る。はたき、いなし、踏み込む狙うはただ一つ、黒い“笑い”の根。


 猫は身をひるがえし実体を避け、代わりに足下から立ちのぼる影で斬りつけてくる。


(生き物には触れる。だから体育館の物陰で鳥も仕留められた。つまり――)


 シュティーは影の斬撃を紙一重でまたぎ、踏み台にして反発をもらう。影を足場に一気に距離を詰め、穂先が猫の額を捉えかけた瞬間、影が背面で弧を描き、幾筋にも枝分かれして襲いかかる。


「へぇ、賢い猫さんだね」


 逃げ場は潰されたそう判断しかけた刹那、猫の身体がふっと空中へ浮いた。突然の浮遊に猫の瞳が見開かれる。心の揺れがそのまま影に波紋をつくり、輪郭がゆらりと崩れた。


 シュティーは見逃さない。しなやかな柄で間合いを調整し、硬度を持つ穂先で一撃。鈍い音と短い悲鳴。猫は後方へ弾かれ、なおも四肢で体勢を立て直してこちらを睨み、くるりと踵を返して虚空を駆けた。


「追うよ!」


 二人は走る。猫は体育館脇を抜け、裏門の方角へ。


「あ、幽霊さん。さっきはありがとうね」


 浮上の正体は、幽霊さんの“持ち上げ”だ。姿は見えないが、どこかでこくりと頷いた気配がする。


 角を曲がった先で、猫はぴたりと止まる。小さな鳴き声。丸まった子猫が四匹。母猫は子らを庇うように背を丸め、低く唸った。


「……なんだ、そういうことか」


 学校付近に迷い込み、この校内で出産。能力で獲物を狩り、結果として“笑う影”が目撃された。


「ごめんね、猫さん。キミたちをどうこうする気はないから」


 シュティーがゆっくり手を差し出す。最初は警戒で耳を伏せていた母猫も、わずかに鼻先を寄せ、緊張を解く。


「家の人を呼ぶわ。攻撃は当たってるし、子猫もこのまま置いとけないもの」


「うん」


 数分後、セシル家の従業員が静かに到着する。能力持ちの動物と知れれば、CIDが実験目的で押しかけかねない――ヴァリーナの即断だった。


 シュティーは監視室に戻り、「原因は取り除いた」とだけ伝える。猫の件は伏せる。こうして“笑う影”の騒ぎは、ひっそりと幕を閉じた。



 現在。


「――ってわけで、依頼は解決」


「なるほどな。にしても、猫に能力か」


「やっぱ気になるよね。前例は無いし、かなりレアケース」


「その母猫と子猫は今どうしてる?」


「セシル家が引き取ってる。CIDに知られたら血相変えるからね。あそこに居たほうが安全」


 シュティーは指先で銀色の筒を転がす。


「で、こっちが本題。ブースターのほうが厄介だよ」


 混沌を呼ぶ銀色の筒。糸口は掴んだ。だが、その先に待つのは、彼女たちの手に余るほど深い闇かもしれない。


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