表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロード家の云々  作者: カキちゃん
第三章 
74/91

第69話「暗闇に笑う」Part4

夜、二十時。シュティーとヴァリーナはふたたびリベルタ高等学校の門をくぐった。笑う影の正体を突き止めるためだ。

通常なら巡回は警備員の役目だが、今夜に限っては監視室で待機してもらい、二人が校内を回る。幽霊さんは、生徒のいない夜はひっそりと美術室にいるらしい。渡り廊下へ向かう前に、美術室へ一声かけていくかとシュティーは考える。


「さ、いきましょうか」


どこか楽しげな声音のヴァリーナに、シュティーは肩をすくめた。


「そんな楽しいことある?」


「もちろん。夜の学校って、昼と違って……ほら、ワクワクするのよ」


貴族令嬢らしからぬ言い草に、シュティーは苦笑する。けれど、この軽さがたしかに彼女の強さで、何度も救われてきた。


まずは職員棟を抜け、中庭へ。猫が逃げたという方向だが、目立った痕跡はない。月明かりに揺れる花壇の花だけが、夜気を吸って静かにきらめいていた。

二人はそのまま美術室の前へ。


「幽霊さーん、いるー?」


返事はない。


「いないのかな?」


踵を返しかけた瞬間、シュティーの手首がぐい、と見えない何かに引かれた。振り向いても、そこには誰もいない。


「……えっと、多分、幽霊さんだよね?」


問いかけると、離れた机の上のノートとペンがふわりと浮き、空中でページが開く。ペン先が走った。


『こんばんは』


さらに一行。


『夜は能力が強まるから、人に触れるの。何かあったら助けるから言ってね』


「助かる。よろしく」


見えない協力者がいるそれだけで、背に一本、心強い芯が入る。


幽霊さんと合流し、目撃地点の渡り廊下へ。体育館の外壁には影も形もない。そもそも“影”が映るなら月光が必要だが、今夜は雲に月が隠れている。


「今日はダメかなー」


とぼやいたところで、裾がつままれた。ヴァリーナが指差す先に、一匹の猫。


「多分、例の猫さんよね?」


彼女がそっと近づいた、その足もと猫の影が、不自然に、液体のように揺れる。


「下がって!」


シュティーはヴァリーナの襟を掴み、背後へ投げる。


「幽霊さん、キャッチ!」


ヴァリーナの体がふわりと浮き、空中で受け止められた。


「ちょっと、急に何よ!」


「いいから後ろで!」


猫の足もとの影が膨れあがり、たちまち巨大な“猫の影”の形を取る。


「ニャァァァ!」


怒声にも似た鳴きとともに、影の左腕が振り下ろされる。

シュティーは紙一重で退く。足もとを見る――床に傷はない。


(物体には触れないタイプ……か。でも“動物が能力持ち”なんて聞いたことない。いや、例外はあるか)


常識では、能力は人間にのみ発現する。目の前の現象は、その常識を撥ねつける“何か”だ。


影の“猫”が、じっとシュティーを見据える。影の口元が笑ったように、黒い線がゆるむ。


「ヴァリーナ!」


影が壁づたいに回り込み、後方のヴァリーナへ跳ぶ。幽霊さんが彼女の体をぐいと引いて回避。


シュティーは駆け寄り、短く告げる。


「固まって。あの影、猫由来の敏捷。物体を伝って襲う分、迎撃は厄介」


懐から硬貨を一枚つまみ、弾いてヴァリーナへ。


「それで何か作って。影を避けながら、本体――猫を直接狙えるもの」


「……猫さんを倒すつもり?」


「現状、それしかない。気は進まないけど」


「わかった。ただ、できるだけ攻撃力は抑えるわ」


硬貨が掌の上でほどけ、形を変える。細身の柄、しなやかな軸、その先にふさふさの穂――


「はい」


受け取ったシュティーは、微妙な顔。


「えっと……これ、なに」


「ごめん、猫さんのこと考えたら、こうなった」


見た目は“猫じゃらし”。だが先端の穂は意外な硬度を帯び、軸はしなる強化材の手応え。打撃と牽制、両立可。


「……よーし。猫さん、遊ぼっか」


冗談めかしつぶやき、シュティーは影の主へ駆けた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ