第68話「暗闇に笑う」Part3
昼休み。授業を終えたヴァリーナと、学内のカフェテリアで軽く腹を満たしながら、午前の聞き取りの整理をする。
「それで? なにか分かった?」
「校長は“生徒に該当能力はいない=外部犯”って見立て。で、最初の警備員以降も目撃が続いてるなら、目的があって学校に来てる可能性は高い……かも。薄い線だけどね」
結論はまだ出ない。夜に張って、現場で確かめるしかなさそうだ。
「そういえば“心霊現象に詳しい人”がいるって言ってたよね?」
「いるわよ。厳密には“人”じゃないけど」
連れて行かれたのは旧校舎の美術室。数人の生徒がキャンバスに向かっている。
「ヴァリーナさん、コンクールの最終確認ですか?」
「いいえ。“幽霊さん”、いる?」
「いますよ。今日は美術室から動いてません」
生徒のひとりが部屋の奥へ声をかける。しかし何も起きない、すると、白い布がふわりと宙に浮かび、ぷかぷかと漂い出した。生徒がノートとペンを差し出して手を放す。ノートは床に落ちず、空中でふわりと開き、ペンが自動で走る。
『こんにちは』
「……これが、この学園の“幽霊さん”」
「能力者、ってこと?」
「多分ね。普通に“幽霊”の可能性もあるけど」
もはや学内のマスコット扱いらしく、誰も怖がっていない。
「幽霊さん、最近の“笑う影”の噂、何か知ってる?」
ノートがまた動き、文字が浮かぶ。
『ごめーん、見てないんだ〜。でも猫ちゃんは歩いてるの見たよ〜。私には気づいてなかったけど』
「また猫……一回だけ?」
『何度か見たよ。体育館の近くの物陰からひょこっと出てくるの。住み着いてるのかもね〜』
「ありがとう。助かった」
『いえいえ〜。調査がんばって〜』
美術室を出ると、ヴァリーナが首を傾げた。
「どう? 幽霊さんは」
「面白かった。……いや、“面白い”じゃないか。協力的で助かる。夜、見回り頼めたら心強いね」
結局、夜間に動くものは夜に見に行くしかない。シュティーは体育館脇の“物陰”を確認しに向かった。確かに、猫が潜むにはちょうどいい。が、近くには動物の死骸が点々と散っている。どこかから狩ってきているのだろう。鳥の死骸まで混じっているのが、妙だ。いくら猫が俊敏でも、空に逃げられる相手をそうそう仕留められるか?
「あとで片付けてもらうわ……」
ヴァリーナは顔をしかめつつ、冷静に用務員へ連絡を入れる。
「単なる“猫”ってわけじゃないかも。」
違和感を胸に、その場を離れる。
「よし。昼に拾える情報はここまで。夜、動こうか」
「わかったわ。いったん家に戻って準備してくる」
「ヴァリーナも来るの?」
「当たり前でしょ?」
「……何か企んでる?」
「さあね?」
からかう声に肩をすくめ、約束を取り付ける。後始末も任せられるなら、同行はむしろ都合がいい。
こうしてふたりは、夜の校舎に潜む“笑うもの”と“猫”の正体を確かめるべく、闇の時間へ踏み込む準備を整えた。




