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クロード家の云々  作者: カキちゃん
第三章 
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第66話「暗闇に笑う」Part1

それは、アラタがカリスベッタへ赴いていた頃のこと。いつもなら自分が動いているはずだが、今日は珍しく、ソファに沈みだらけている。庭ではディノがミオナに剣術を教えている――が、どうにも形になっていない。ぎこちない構えと足さばきが可笑しくて、シュティーは思わず口元を緩めた。


軽快なノック。ドアが開き、金髪を揺らしてヴァリーナが入ってくる。


「こんにちは。アラタさんが行ってるからって、暇そうね?」


「いや? 暇するのに忙しいから」


ヴァリーナは小さくため息を落とした。


「まったく……それより依頼よ。私からのね」


ヴァリーナ直々の依頼。シュティーは訝しむ視線を向ける。何か企んでいるのか――と。


「『何を企んでるんだ?』って顔ね。安心して、ちゃんと依頼だから」


「とりあえず聞くよ」


しぶしぶ上体を起こすと、ヴァリーナは簡潔に告げる。彼女の通う“リベルタ高等学校”で、夜間巡回の警備員が「暗闇に笑う影を見た」と言う発言。教師や生徒の間にも噂が広まり、気になって確かめに行った者は、いずれも「確かに笑う影を見た」と口を揃える。原因不明。学校としては生徒を預かる身、早急に片づけたいだからこそシュティーに、と。


「なるほどね。見間違いって可能性は?」


「最初はそう思われてたみたいだけど、何人も目撃してるから、単なる見間違いじゃないかもね」


「ただの心霊現象なら良いけどな〜」


「心霊って事なら、学校に詳しい人いるわよ?」


どこか含みのある言い方に、シュティーは片眉を上げる。


「ふーん……とりあえず分かった。準備できたら調査に向かうよ」


「ありがとう。校長先生には伝えておくわね」


こうして、リベルタ高等学校に現れる“笑う何か”の調査が決まった――はずだった。


後日、校門をくぐったシュティーは、何故か学校の制服を着ていた。


「ヴァリーナ? どうしてボクが制服を着てるのかな?」


「一応、怪しまれないためって感じ? 校長先生に話したら手配してくれたの」


「郷に行っては郷に従え、か……怪しまれない程度に調査するよ」


慣れないブレザーと白シャツ、プリーツスカート。足元を抜ける風がやけに涼しく、スースーして落ち着かない。憧れはないけれど“普通”の人生なら、当たり前に着て廊下を歩いていたのかもしれない。そんな場違いな感傷を振り払い、ヴァリーナの案内で目撃現場へ向かう。


リベルタ高等学校は二十世紀初頭の創立。石造りの旧校舎と、ガラスとスチールを多用した新校舎が中庭でつながり、屋上テラスには植栽が整う。堅苦しさのない、風通しの良い空気。


「シュティー、周りをキョロキョロ見てるけど、何か気になることあった?」


「別に? 良いところだなーって」


「ふーん?」


ヴァリーナがニヤニヤするのを、見なかったことにする。


「おはようございます、ヴァリーナさん。今日もいい天気ですね」


廊下で声をかけてきた生徒が、シュティーに視線を移す。


「そちらの方は……? 見たことない方ですが…」


「え、えぇ……ちょっと一日だけ見学、みたいな。案内してるの」


「そうですか。よろしくお願いします。私はエリカ・スカルパと申します」


差し出された手。シュティーは握手を返す。


「よろしく。ボクはシュティー・ク――」


「?」


「シュティーでいいよ。よろしくね」


姓を言いかけて、ぎりぎりで嚙み殺す。エリカが会釈し去っていくのを見届け、二人は再び歩き出した。


「さっきは危なかったわね? シュティー」


「うっかり言いそうになった……気をつけないと」


目撃地点――旧校舎の渡り廊下に差しかかる。日陰は昼でもひんやりして青い。窓ガラスに映る二人のシルエットが、ふと歪んで笑ったように見えたのは、気のせいか。


“暗闇に笑う影”。


確かめに来たのは、ただの噂か、あるいは――。シュティーは視線を細くして、最初の一歩を踏み入れた。



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