第6話「消えた本棚」Part3
シュティー・クロードは、ある仮説に辿り着いていた。
(――犯人はこの街に土地勘があり、逃走ルートも計画的に確保している。狙いは金でも命でもない。本棚。情報の蓄積。まるで存在そのものを奪いたがってるみたいに。これって……注目してほしいっていうアピールじゃない?)
「自己顕示の快楽犯、ってとこかな」
呟きながら、住宅街を抜けた。向かう先は、少し離れた空き地の先。昼間でも誰も寄りつかない、廃工場跡地の一角。ここはよく、ゴロツキどもが集まっている場所だった。
その日も、案の定。三人ほどの男たちがタバコを吹かし、コンクリの壁に落書きを加えていた。柄の悪さだけで言えば、地元で五指に入るような連中だ。
一人を狙って、シュティーが歩み寄る。
「ねぇ、ちょっと聞きたいことあるんだけど」
軽い調子で声をかけると、男が睨みつけてきた。
「は? なんだこのガキ……」
気にせず、シュティーは続けた。
「この辺に“物質操作”系の能力者がいたりしない? 知ってたら教えてくれると助かるんだけどな~」
ゴロツキは鼻で笑う。
「知ってても知らなくてもなぁ、お前みてぇなガキにペラペラしゃべる義理なんてねぇよ。さっさと――」
次の瞬間、パンッという音が鳴った。
乾いた破裂音と同時に、ゴロツキのすぐ横の壁に、鉛の弾丸が突き刺さる。
男は言葉を飲み込み、尻もちをついて目を見開いた。
煙が漂う銃口。その向こうで、シュティーがニコリと笑っていた。
「君って、鉛玉好きだったりする?」
「……え?」
何が起きたかをまだ理解できていない様子の男に、シュティーが無邪気な声で続ける。
「好きならね、“これ”をプレゼントしようかなーって思ったんだけど。ねぇ、能力者のこと、知ってる?」
銃口を下げず、笑顔も崩さず。無言のまま、じわじわとプレッシャーをかけるその姿は、むしろ子どもではなく、猛獣に近い。
「いや……いや、知らな――」
言いかけた瞬間、カチッと、銃の弾が込められる音がした。
その音が脳に届いた時、ゴロツキは己の眉間に銃口が押し当てられていることに気づいた。
震える手。喉が鳴る。脇から汗が滴り落ちる。
「く、くわしくは知らねぇけど……最近この街に変な奴が入り込んで来たって噂は聞いた。なんかずっとニタニタしてて、気味が悪ぃヤツだって」
「ふーん。どこにいるか知ってる?」
「居場所までは知らねぇけど……確か、少し離れた倉庫に出入りしてるのを見たって奴がいた……あそこら辺は使われてねぇ古い倉庫ばかりだから……」
「ありがと」
そう言って、シュティーはポケットから札束を取り出し、小さくまとめてゴロツキの手に握らせる。
「これ、ほんの少しだけど。教えてくれたお礼ね」
「……え、あ、ああ……」
放心状態のまま金を受け取る男を置いて、少女は振り返った。
「じゃあ――バルタ、行こうか」
「容赦ねぇな、お嬢」
苦笑しながら言うバルタに、シュティーは肩をすくめてみせた。
「いやいや、ちゃんと“対話”したじゃん。むしろ感謝されてほしいくらいなんだけどなぁ」
言葉と態度が一致しない。優しげな口調の裏に、酷薄な圧力が潜んでいた。
シュティーは足取りも軽く、教えられた倉庫街へ向かって歩き出す。そこに“物質操作系”の能力者がいるかは分からない。けれど、いまの状況で“何か”を知っている人間がそこにいることは確かだった。
「行こっか、熱源を辿るよ。変なのがいれば、すぐ分かるでしょ?」
バルタは無言でうなずき、その背中を守るように歩き出す。
結構ぐだぐだが続くけど許してくれ!
書いてると1〜3話つまんねぇなって思う()