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クロード家の云々  作者: カキちゃん
第三章 
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第63話「路地の棘」Part4

犯人と一度刃を交えてから三日。アラタが街に居座っているせいか、通り魔は鳴りを潜め、ノーラも「視線」を感じることがなくなったという。表向き、依頼としては完遂に等しい。だが、あの夜の手応え――いや、手負いにしそこねた悔しさが、アラタの胸に刺さり続けていた。


(終わったと見せかけて、またやる。あれはそういう手合いだ)


「ボスに連絡してみるか……って言っても、犯人を割ったわけじゃねぇ。頼ったところで意味は薄いな」


独りごちるアラタに、ノーラが声をかける。


「もういいわよ? 最近は嫌な視線も感じないし、依頼は完了ってことで」


「……まぁ、そうだな」


返事は淡々。だが裏腹に、腹は決めている。


「もう一晩張る。それで何も起きなきゃ、よしだ」


夜。最後の張り込み。空気は相変わらず、音を飲み込み、静謐だけが路地を満たしている。


(なぜ奴は急に姿を消した? 俺がいるから逃げたそれが自然だ。だが、あの対峙で分かった。あいつは冷静だ。攻撃、撤退、判断に迷いがない。やろうと思えば仕留めに来れたはずなのに、逃げた)


この街は外からの人間が目立つ。日没以降は人が途絶え、丘の上に孤立する。徒歩での出入りは現実的でなく、車の音は夜に響く。ならば――。


(犯人は住人側。……か、巧妙に装っているか。後者なら相当のやり手だ。あの夜、逃げたのも“準備”のため。確実に仕留める段取りに戻った、と考えるのが筋だな)


「アラター?」


家の中からノーラの声。アラタは肩越しに視線をやる。


「もう大丈夫だし、今日は休んだら? 子供も、あなたに懐いてるし」


「……仕方ないか」


家の中。子供と戯れる短い時間。もし自分が“普通”に生きていたら――そんなあり得た今が、ふっと脳裏をかすめる。


「その……ごめんなさいね、あの時は……」


最後だから。ノーラの言葉には、そんな色が混じっていた。


「気にすんな。あの日がなきゃ、俺はクロード家に入ってねぇ。だらだら生きてたかもしれねぇしな」


それは本心だった。良くも悪くも、きっかけが人を形づくる。


「ここ数日、お前をちゃんと見てた。あの頃とは違うって分かった。なら、次は“守れ”。こいつにはお前しかいない」


「……そう。ありがとう。それでね、話は変わるけど――」


ドゴン。


壁が、抉れるように貫かれた。


「っ――!」


アラタは反射でノーラと子供を抱き込む。肌に温かいものが伝った。庇った腕から血が滴り落ちる。


「アラタ! あなた、血が――!」


「それより子供と逃げろ」


短く告げ、立ち上がる。


「久しぶりだな、クズ野郎」


路地の影から滲み出るように、あの男。だが様子が違う。目は血走り、呼吸は荒い。手には銀色の筒。


迷いなく、それを首筋に押し当てる。

ケタケタと笑い、男から“棘”が噴き出す。アラタは間一髪で身を捻るが、しなった棘は空中で枝分かれし、弧を描いて刺し戻ってくる。鋭い先端が肉を掠め、痛みが走った。


「へぇ、小細工を用意したらしいな」


口元が歪む。だが、瞳は獲物を射抜く光のまま。


「でも覚悟しろ。ここがお前の墓場だ」


意気揚々と告げながら、アラタは右手をわずかに握る。


――秘策は、もう“仕込んである”。


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