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クロード家の云々  作者: カキちゃん
第三章 
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第60話「路地の棘」Part1

月明かりが濡れた石畳を鈍く照らしていた。夜気を裂いて響く足音、洗い呼吸。追われる影は振り返らない。だが“それ”は確かに迫ってくる。見えない棘が背に刺さるような、執拗で冷たい気配が、距離を詰めてくる。


――場面は切り替わる。クロード家。


その日の屋敷は、いつも通りの温度だった。裏庭ではアラタがミオナに構えを直させ、足回りを叩き込む。キッチンではバルタが手際よく包丁を動かし、ディノは磨き上げた刀身を傾けては独りごち、にやりと口角を上げる。


軽快なノック音が、その日常にひとつの区切りを打った。金の髪をさらりと揺らし、ヴァリーナが手紙を手に入ってくる。


「こんにちは、シュティー」


「やっほ。今回はどんな依頼かなー?」


ヴァリーナが封を切った手紙を渡すと、シュティーは読み進めながら目を細めた。依頼主はノーラ・カルディ。


依頼内容はセルカ島中央部からやや北、丘のうえの街「カリスベッタ」人口は右肩下がり、灯りは薄く、“寂れた街”と呼ぶのが似合う。最近その街で頻発する通り魔事件に関わるものだった。数日前、ノーラ自身も遭遇したが、間一髪で逃走。だがそれ以来、どこからともなく視線を感じる――通り魔に狙われているのではないか。その不安が、クロード家の扉を叩かせた。


「なるほどね、通り魔事件か……。アラター」


「なんすか、ボス」


「新しい依頼。カリスベッタの件、調べてきてくれる?」


手紙を受け取り、アラタは文面に目を走らせ――ぴたりと固まった。


「なぁボス。今回の依頼、ボスが行く予定か?」


「そうだけど?」


アラタはわずかに顔をしかめ、覚悟を固めるように息を吐いた。


「……すまない、ボス。今回は俺に任せてくれないか」


「ひとりで、ってことでいいのかな?」


「あぁ…」


「一応、理由を聞いてもいいかな?」


言いにくそうに視線を落とし、アラタは口を開く。


「依頼主のノーラ・カルディは……俺の元カノだ…」


低く、しかしはっきりとした声だった。


「へぇ……アラタらしいと言えばらしいけど。他にもあるよね?」


「……こいつは俺がクロード家に入るきっかけになった女でもある。正真正銘の性悪だ。ボスに会わせるわけにはいかない」


シュティーは短く考え、すぐに頷いた。


「わかった。アラタのことだし、下手は打たないでしょ。――ただ、問題が起きたらすぐ連絡。いいね」


「ありがとう、ボス」


ほんの一瞬、アラタの表情から冗談めかしさが消えた。その目には、過去と向き合う者の硬い決意だけが残っている。


こうして、アラタの因縁に刃を入れる「通り魔事件」が幕を開けた。


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