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クロード家の云々  作者: カキちゃん
第三章 
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第59話「プリンチペ・ディ・ソルツァ」Part6

 一階スタッフルーム。その最奥、簡易ベッドに縛り付けられた男がいた。逞しい体幹に縄が食い込み、口数少なく、ただ冷ややかにこちらを睨んでいる。


「それで、何が目的だったのかな?」


 シュティーは、責め立てるでもなく柔らかな声で問いかけた。だが男は無言のまま、視線すら動かさない。


「名前は……アーセム・リード。これ、本名? 偽名かもだけど」


 返事はない。空気が重く沈む。


「ミオナちゃん、分かったりする?」


「ごめんなさい。私の能力は“嘘を見破る”だけなので……相手が嘘をつかないと、何も……」


 ミオナは申し訳なさそうに肩を落とした。


 シュティーは唇を噛む。やはり“四階に何かがある”と踏んでいる。だが本人が口を割らない限り、決定打に欠ける。


 ふいに背後の影が揺れ、支配人がぬるりと現れた。解除後の四階を見回ってきたのだろう。


「シュティー様。四階を確認いたしましたが、特段の変化や隠匿物は見当たりませんでした。何かを隠しているという印象も、ございません」


「……なるほど。じゃあ“ただの愉快犯”ってこと?でも、わざわざ長期滞在してまで能力で混乱を作るかな……何かあるはずなんだけど」


 シュティーの目が細くなる。男は相変わらず表情を動かさない。


「CIDには連絡済みです。数十分で到着し、護送に移るとのこと。事件は実質収束、ここからはCIDにお任せでよろしいのでは?」


 支配人の提案はもっともだ。だがシュティーはむっと頬をふくらませる。依頼を受けた以上、“なぜ”に辿り着きたい。けれど相手が沈黙を貫く限り、これ以上は空振りに終わる。


「……まぁ……仕方ないかぁ……」


 渋い顔で椅子にもたれた。


 やがて、CIDが到着。淡々と手続きを済ませ、男は二人の隊員に挟まれて連行されていく。その背を見送りながら、ミオナがふと首を傾げた。


「そういえば、支配人さんって……さっき“ワープ”と“触手”、二つの能力を使ってましたよね? あれって、特殊系なんですか?」


 支配人は待っていましたと言わんばかりに胸を張る。


「はい! 私の能力は『深淵慓行』。“闇を繋げるワープ”と“身体の一部を触手化する”——二つの全く異なる性質を併せ持つ“混合能力”でございます。特殊系とは異なり、別個の能力が二重に宿っている稀少タイプなのです!」


「な、なるほど……」


 テンションに押され、ミオナはぱちぱちと瞬きを繰り返す。


「その“混合能力”のせいで、CIDにマークされてた時期あったよね。レアすぎて」


「左様です……ですが、その折はシュティー様が間に入ってくださり、今はこうして支配人として働けております。本当に——」


 支配人は深々と頭を下げる。


「この度も、事件解決に尽力いただき、誠にありがとうございました」


「いいよ別に。正直、ボクが来なくても“時間”が解決してくれた気もするし」


 ひらひらと手を振って笑う。


「今回は事件もだけど、高級ホテルを満喫するって目的もあったからね」


 冗談めかしつつ、横目でミオナを見やる。


「ともあれ、また何かあったら連絡して。できる範囲なら協力するから」


 こうして、ホテル・プリンチペ・ディ・ソルツァを騒がせた“異常空間”事件は一応の幕を閉じた。


 ——ただ、シュティーは気づいていない。


 このホテルの最上階から、彼女たちを見下ろす“視線”があることに。


 場面は、最上階の一室。


 厚いカーテンの隙間。差し込む細い光の帯の向こうで、ひとりが静かに下界を観察している。


「能力『幽閉階』……いいデータが取れた。今回は支配人の能力が噛み合って捕まったが——必ず“回収”しにいく」


 囁きは淡々としていた。そこに敵意や憎悪はない。ただ、興味と計画の色だけが宿っている。


 視線は次いで、遠くに並ぶ二つの小さな影——シュティーとミオナへと移った。観察者の瞳が、わずかに微笑む。


 カーテンが、音もなく閉じられる。空気が元の静けさを取り戻した。


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