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クロード家の云々  作者: カキちゃん
第三章 
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第58話「プリンチペ・ディ・ソルツァの怪」Part5

朝焼けがホテルの外壁を淡く染めるころ、シュティーたちは行動を開始していた。


 目的は、異常空間を作り出した“犯人”を特定すること。客リストを元に、該当する客室を一つずつ訪問していく。


 最初に向かったのは、2階の207号室。


 コンコン——軽快なノックを2度。反応がない。再度、もう2度。


 今度は扉の向こうから、微かに動く気配がした。数秒後、ドアがゆっくりと開く。


「なんですか…こんな朝早くに…」


 中から現れたのは、眠たげな目をこする中年の男。無理もない。こんな時間に宿泊客を叩き起こすのは、明らかに非常識だ。


「申し訳ございません。実は四階で起こっている異常について、宿泊されている皆様に聞き取りを行っておりまして。何か心当たりなどございませんでしょうか?」


 支配人が丁寧に説明を加える。男は少し訝しげに眉をひそめたが、意外にもすんなり口を開いた。


「仕事で泊まってるだけですからね。変な話ですが……何か知ってるかと聞かれても、知らない、としか言えません」


 シュティーは隣に立つミオナへ視線を送る。ミオナは静かに頷き、耳打ちした。


「この人は……嘘をついてません」


「左様でございますか。早朝に大変失礼いたしました」


 支配人が深く頭を下げ、三人は207号室を後にした。


 残る対象は二人。どちらもスイートルーム宿泊者だった。


(外れたら厄介だけど……客の中にいるという推測は崩れてない)


 シュティーは迷いなく次の階へと向かう。


 8階、812号室スイートルーム。コンコン、とノック。今度はすぐに反応があった。


「おはようございます……何かありましたか?」


 開いたドアから現れたのは、大柄で筋骨隆々の男。服の上からでも分かる鍛え抜かれた肉体と、低く響く声。その姿は威圧感すら感じさせた。


「申し訳ございません、実は四階の件で——」


 支配人が言葉を継ごうとした瞬間、男が一歩踏み出し、その言葉を制した。


「客に聞いて回ってるって訳か? それも、こんな朝に? 俺はこんな粗悪なサービス受けるために泊まったわけじゃないんだがな。知らねぇよ、何も。それ以上、言うことはない」


 怒気すら滲ませた声に、支配人の表情が硬直する。


「申し訳ございません、お詫びと言ってはなんですが、宿泊料の一部を返金するという形で——」


「別に返金しなくて良いと思うよ」


 シュティーの淡々とした声が、その場の空気を切った。男の視線がシュティーに向く。


「なんだガキ……」


「まぁ落ち着いてよ、“犯人さん”。とりあえず、理由はこれから聞くからさ」


 その一言で、空気が一変する。


「は? 俺が犯人だと? そんな訳ねぇだろうが」


 男は鼻で笑い、嘲るように言い放つ。


「また嘘をつきました」


 ミオナの声が静かに響く。


「だってさ。どうする?」


「そんなガキの話、誰が信じるんだ?」


「信じるも何も、“能力”だから。ま、本人しか分からないって意味では、嘘って言われたらそれまでだけど」


「……なるほど。能力者って訳か。じゃあ、話はここまでだな」


 男はニヤリと笑い、勢いよくドアを閉めた。


 シュティーが即座に扉を開けるが、そこに男の姿はない。


「シュティーさん!!」


 少し離れた方角からミオナの声が響く。そちらへ視線を向けたシュティーは、番号を確認しながら軽く舌打ちをした。


「……今度はこの階に異常空間を作ったか」


 ちょうどそのとき、逃げる男の姿が横手に見えた。シュティーは急加速して距離を詰める。だが、男は再び部屋へと逃げ込む。


 ——その瞬間、812号室のドアが開き、男が再出現する。


男は支配人とミオナを押し倒し逃亡を図る。


「支配人! 取り押さえて!」


 シュティーの叫びに、支配人は即座に応じた。手のひらから伸びるのは、蛸のような紫色の触手。瞬く間に犯人の体へ絡みついていく。


 しかし——


 犯人はナイフを取り出し、触手を鋭く突き立てた。支配人が一瞬だけ苦悶の表情を浮かべ、触手が緩む。


「支配人、ワープ!!」


 シュティーが叫ぶ。支配人は即座に判断し、ワープゲートをシュティーの目前へ開く。


 ゲートの向こうは逃走を図ろうとする犯人の正面。


 勢いのままシュティーはワープを通過し、その拳を男の腹部へ叩き込む。ボディブローが直撃するも、相手は屈強な肉体で耐えきる。


 ——が、それは“囮”だった。


 油断した犯人の背後から、支配人の触手が一気に束となって伸び、渾身の一撃として男の体へぶつけられる。


「——っ!」


 犯人の意識が断たれ、その場に崩れ落ちる。


 直後、周囲の空間に微かな“歪み”が走り、すぐにドアが開き、他の客が顔を出す。


 ——犯人の気絶により、能力が解除されたのだ。


 支配人は即座にワープゲートを繋ぎ、一階のスタッフルームへ向けて犯人を連行した。


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