第57話「プリンチペ・ディ・ソルツァの怪」Part4
ミオナの能力「嘘発見器」での調査が始まる——はずだった。
しかし今、シュティーとミオナはホテルの一室で優雅なアフタヌーンティーを楽しんでいた。
「……あの、シュティーさん。私の能力で犯人を見つけるんじゃ……」
ミオナがカップを置き、首を傾げる。
シュティーは口元に微笑を浮かべ、紅茶を一口啜った。
「そのつもりだったけどね。せっかく高級ホテルに来たんだから、満喫しないと。多分、犯人はそう簡単に動かないよ」
このホテルは高級ビジネスホテル兼ラグジュアリーホテルという立ち位置で、長期滞在の客も珍しくない。
シュティーの判断は「急ぐ必要はない」。それならば、ホテルの空気を味わいながらじっくり観察する方が得策だった。
「でも……支配人さんは早く解決してほしいんじゃ?」
ミオナが不安げに尋ねる。
「んー? 支配人も『良いですよ』って言ってた。むしろ、4階の異常が格を落とすどころか噂になって、記者まで来てるくらいだし」
皮肉なことに“異常階”は評判を呼び、宿泊客も増えていた。
人の出入りが多くなれば、犯人の行動は制限される。動きやすい状況を作れるのは悪くない。
シュティーはカップを置き、少し真剣な眼差しをミオナに向けた。
「ミオナちゃんさ……あまり寝れてないでしょ?」
ミオナの肩がぴくりと揺れる。図星だった。
「……まぁ、バスクファミリーの件から時間は経ったけど、心の傷はすぐ消えるもんじゃない。ミオナちゃんの能力を使えば一発で犯人は分かるけど……ボクは、まずミオナちゃんが元気になる方が大事だと思ってる」
「シュティーさん……」
こみ上げるものを堪えきれず、ミオナの目から涙が零れる。
「寝れないなら、いい先生を紹介してあげる」
シュティーは柔らかく笑い、ケーキを一口頬張った。
二人はその日、ささやかな幸福を噛みしめた。
数日後、夜。
客が眠りについた頃、シュティーは支配人と密会していた。
「それで? 状況は」
「ええ、『高級ホテルの異常階!』という見出しで新聞が売れまして、お客様が殺到しています。アトラクション感覚で異常階を体験したい方も多くて」
「良かったじゃん。客が体験できるってことは、能力を解除できる時間が夜に限られてるってこと。犯人はもうかなり疲れてるはず。……で、前もらった客リストの中で、チェックアウトしたのは何人?」
「長期滞在が多いですが……二人ほど退去されました」
「じゃあ残り三人の中にいるわけだ」
支配人はわずかに眉をひそめる。
「しかし……本当にお客様の中に犯人が? スタッフにその可能性は……」
「最初はそう思ってたけど、この数日スタッフを観察した限り、怪しい動きも疲弊もなかった。だから、客に絞る」
「左様でございますか」
「まあ……明日には全部終わらせるから」
シュティーは窓辺から夜空を見上げる。
月明かりを映すその瞳は、氷のように澄んでいた。




