第56話「プリンチペ・ディ・ソルツァの怪」Part3
一階はロビー、フロント、レストラン、バーなど共用施設が大半を占め、客室は特別室やバリアフリー対応の一部だけだった。
仮に犯人が客だとしても、潜伏先は二階以上の方が現実的だろう。だが、地形の把握は重要だ。万が一、ホテル内で戦闘になった場合にも役立つ。
シュティーたちは一階の調査を終えると、二階へ向かった。客室内部までは調べられないため、廊下などのありきたりな場所しか見られない。それでも「何かヒントがあれば」程度の気持ちで、他の階も同じように順番に回っていく。
数十分後、一通りの調査を終え、再び一階に戻った。
「他の階に特に怪しいところはなかったね」
「そう言えば、五階に行く時に四階を通り過ぎましたけど、それだけじゃ四階には繋がらないんですね」
「そうだね。多分だけど、部屋と同じように“エレベーターをくぐる”ことが条件で閉じ込められるんだと思う」
そんな会話をしていると、シュティーの横からぬっと支配人が現れた。
「お待たせいたしました。こちらが当ホテルの設計図と、この一週間前後に滞在されたお客様のリストでございます」
差し出された丁寧にまとめられた資料を、シュティーは受け取る。
「ありがとう。じゃあ、ミオナちゃん、四階に行こうか」
ミオナが頷き、二人は再びエレベーターへ乗り込む。
四階に降り立った瞬間、シュティーは前回とは違う、微かな違和感を覚えた。手元の設計図を開き、廊下を歩きながらその正体を探る。建物の寸法はきっちりと明記されている。
やがてシュティーは携帯を取り出し、支配人へ連絡を入れた。
「メジャーとか、測れるもの持ってきてくれる?」
数分後、影から支配人が現れ、メジャーを差し出す。
シュティーはそれを受け取ると、おもむろにドア幅を測り始めた。
「支配人? この設計図って正確な物だよね?」
「左様でございます。当ホテルでは年代ごとに厳重に保管しており、改竄の恐れはございません」
シュティーは壁を測り、ふっと息を吐く。
「なるほどね……」
そして振り返り、ミオナと支配人に向かって口を開いた。
「元は“階そのものを異常空間にする”能力だと思ってた。でも違う。測った感じ、この空間は“表記より五ミリ小さい”つまり通常空間に重なるよう"異常空間を作る能力"」
ミオナは目を瞬く。
「つまり……犯人は、通常の四階に何かあって、それを異常空間で隠してる?」
「お、いいねミオナちゃん。花丸あげよう。その通り。そしてこの異常空間、ずっと一週間維持されているように見えるけど……実際は違うと思う。“階を異常空間にする”じゃなくて、“重ねるように作る”だから、ずっと維持するには相当な体力がいる。それを一週間も続けるのは無理だ」
支配人が口を挟む。
「しかし私はシュティー様がいらっしゃるまで、何度か四階に入りました。そのたびに異常空間へ繋がっていましたが……」
「だよね。つまり犯人は、四階に向かう人の行動を監視してる。誰かが向かうと、すかさず異常空間を作って混乱させている。そしてこのリスト一週間前から滞在している客は五人。その中に犯人がいる」
「なるほど……ですが、“自分が犯人”なんて申告する者はいないでしょう」
「そう!そこでうちの新人、ミオナちゃんの出番だよ」
シュティーがニヤリと笑う。こうして、ミオナによる能力を使った調査が始まった。




