第54話「プリンチペ・ディ・ソルツァの怪」Part1
拠点の扉が開き、シュティーが軽い調子で入ってくる。
「ただいま〜」
その声を聞くや否や、アラタが勢いよく駆け寄ってきた。
「ボス! 大丈夫か!」
「んー? 大丈夫だけど?」
「そっか……ボスが監獄島に行ったって聞いたから……クソ、あの氷結野郎、今度会ったら一発殴ってやる!」
「やめときなよ。というかアラタじゃエルメルどころか、ミルムにも勝てないでしょ?」
「前よりは強くなってるぞ、俺!」
キッチンから顔を出したミオナが首を傾げる。
「そんなに強いんですか? エルメルさんとミルムさんって」
ディノが軽く笑いながら口を挟んだ。
「そうだな。ミルムは元CID部隊の隊長だ。最年少で隊長になったほどで、戦闘センスならお嬢以上じゃないか?」
その一言に、ミオナは驚きを隠せなかった。
「シュティーさん以上……? ってことは、エルメルさんも……?」
「エルメルは戦闘センスってより、能力そのものが反則だな。瞬間的な氷結。アイツが監獄島の所長になってから脱獄者はゼロだ。それに——アイツの能力は“覚醒能力”だからな」
「覚醒能力……?」
ミオナが小首を傾げる。
「知らないか。まあ世間じゃ都市伝説みたいな扱いだからな。けど確かに存在する。能力のスペックすべてが、普通の能力者を遥かに凌駕する。アラタなんて一瞬で凍らされて終わりだな」
「まぁそういうわけだから、アラタは大人しくしててね」
「……わかったよ」
シュティーはそこで話題を変えるように、ミオナへと視線を向けた。
「それで話は変わるんだけどね、ミオナちゃん」
懐から一通の手紙を取り出し、ひらりと見せる。
「今からホテルに行こうか」
場面は切り替わる。
セルカ島からおよそ4時間。ソルズカ共和国本土、北部内陸に位置する大都市“セリオラ”。
経済規模は国内第2位を誇り、金融・商業・ファッション・観光の中心地として知られる街だ。
歴史的建造物が並ぶ旧市街と、近代的な高層ビル群が融合する都市景観。その中心に堂々とそびえ立つ、高級ホテル——プリンチペ・ディ・ソルツァ。
重厚な扉の前で、ミオナは不安げに口を開く。
「……本当に大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だって。支配人とは知り合いだからさ」
扉をくぐった瞬間、煌びやかな内装に思わず息を呑む。場違いではないかと錯覚するほどの空間——。
そのとき、足元の影からぬるりと仮面の男が現れた。
「ようこそおいでくださいました! シュティー様! そして、そちらがミオナ様でございますね? 私、このホテルの支配人を務める者でございます。以後、お見知りおきを……」
妙に高いテンションの裏に、不気味な雰囲気を纏った男だった。
「久しぶりだね、支配人。それで、手紙にあった依頼ってのは?」
「話が早い! まずは、こちらへ」
応接室に案内され、支配人が事情を語り始める。
「依頼というのはですねぇ、当ホテルで起きている異常現象にございます。10階建ての当館、その4階にて——1週間ほど前のこと。宿泊されたお客様が、いつまで経っても出てこなくなったのです。そして様子を見に行ったスタッフまでもが、戻らない。私が直接赴くと、彼らは口を揃えて“出られない”と言うのです」
支配人はそこで一呼吸置き、続けた。
「私は能力でお客様とスタッフを救出し、一時的に4階を使用禁止にいたしました。しかし、このままではホテルの格に関わります。そこで——シュティー様に依頼を出した次第です」
「なるほどね……話を聞く限り、能力でなら脱出は可能ってことかな?」
「左様でございます。しかし裏を返せば、能力なしでは脱出不可能ということでもあります」
「……わかった。とりあえず4階に行ってみるよ。電話は使えるんだよね?」
「はい、電波は遮断されておりませんので、いつでもご連絡ください。私がすぐにワープで繋ぎます」
「助かる。じゃあ、ミオナちゃん初任務、がんばってこ」
「はい!」
こうして、ホテル「プリンチペ・ディ・ソルツァ」における異常の調査が幕を開けた——。




