第52話「新しい家族と始まる日々」
「クロード家に入れてほしい」
突如として告げられたミオナの願いに、シュティーは目を瞬いた。
彼女の中で、すぐにひとつの疑問が浮かぶ。
──レガルドに支配され、今までまともな生活を送れなかったはずの少女だ。本来なら、裏社会やマフィアからは距離を置いた方がいい。そう思うのが普通だろう。
「一旦、詳しい理由が聞きたいかな」
ミオナは少し唇を噛み、それからゆっくりと口を開いた。
「そうですね…家族と再会して、また家族と一緒に幸せな人生を送ろうって思ってたんですけど……」
一度言葉を区切り、真っ直ぐシュティーを見つめる。
「……シュティーさんのことが、気になって」
「ボクのこと?」
「はい。私のために命を賭けてくれた恩人に、何かしたいと思ったんです。もちろん家族に話した時は反対されました。やっと元通りになったのにって……」
声は震えていない。ただ、瞳の奥に熱が宿っていた。
「でも私は、誰かに道具のように扱われるんじゃなくて、自分の意思で、シュティーさんの力になりたいんです」
その目を見た瞬間、シュティーは悟る。──断る理由など、どこにもない。
「そうか……うん、分かった! いいよ!」
ほぼ二つ返事で承諾すると、ミオナの顔がぱっと輝く。
「ありがとうございます! そしてよろしくお願いします。えっと……ボス?」
くすっと笑みを零すシュティー。
「別にシュティーでいいよ。呼びやすい言い方で」
「分かりました。じゃあ……シュティーさん。このミオナ・フィオレッタ、シュティーさん、そしてクロード家のために頑張ります!」
そう言って、ぎゅっと拳を握りしめた。
数日後。クロード家の面々が集められる。
「と、いうことで! ミオナちゃんがクロード家に加入したので──これより、ミオナちゃん育成計画を始めます!」
突拍子もない宣言に、ディノが眉をひそめる。
「お嬢、育成計画ってなんだ?」
「良い質問だね、ディノ!」
シュティーは楽しそうに胸を張った。
「ミオナちゃんが加入したのはめでたい。でも問題がある。それはズバリ──ミオナちゃんの基礎能力!」
「うちって依頼内容によっては危険なこともあるじゃん? だからミオナちゃんには、一定の戦闘能力と、能力を活かした任務遂行力が必要。それを鍛えるのが、この育成計画!」
「育成計画はいいが……誰が指導するんだ?」
アラタが腕を組みながら尋ねる。
「そうだね。ボクが直々にやってもいいけど、これから予定があるんだよね……ということで、アラタ! ミオナちゃんの教育、お願いね!」
「は?」
思わず間抜けな声が出る。
「待ってくれボス、なんで俺なんだ?」
「アラタ、どうせ暇だろうし。それに基礎能力ならディノやバルタよりアラタの方が合ってる。そして能力を活かすとなれば、偵察や情報収集が向いてるから──アラタのノウハウをミオナちゃんに伝授してほしいんだ」
アラタは渋い顔をしながらも、やがて小さく息を吐く。
「……はぁ、わかったよ。ボスの言うことだしな」
そしてミオナに視線を向ける。
「よし! ミオナ、俺についてこい! 俺はボスみたいに優しくねぇぞ!」
「はい! アラタさん、よろしくお願いします!」
真剣に頭を下げるミオナ。その様子に、アラタも少しだけ口元を緩めた。
こうして──シュティーがボスになってから初めて迎える新たな家族、ミオナ・フィオレッタ。
新しい歯車が、静かに動き始めた。




