第50話 「消えそうな光」
レガルドとの戦いは、ついに幕を閉じた。シュティーは振り向き、ミオナのほうへ歩み出す。だが、傷ついた身体はそれすら許してくれない。重度の火傷、打撲――そんな状態で己を奮い立たせ戦っていたのだ。無理もない。
足取りは重く、視界が揺れる。ゆっくり、しかし着実に、命は遠のいていく。そして意識が闇に沈む。最後に見たのは、泣きながら駆け寄ってくるミオナの姿だった。
夢の中
暗い道を歩いている。果てが見えない。
何のために? 理由は分からない。だが歩かなければならない。誰かにそう言われているように、ひとり暗闇を進む。
何もない。それは、まるで自分の人生のようだった。
母を殺し、父を失い、罪を背負ってきた。
ただ、その罪を清算するためだけの人生、誰のためでもない、意味のない清算。最初から、何かの間違いで生まれたただの不幸、最悪。そう言い聞かせながら歩き続けた道は、決して優しいものではなかった。
無数の試練、無数の傷。だが、その痛みこそが自分の人生を彩っていたのかもしれない。
この先も罪を背負い、傷を負い続けるだろう。それでも、ボクが壊してきたすべてに比べたら大したことはない。
暗い暗い夢の中、さらに深い闇へと向かおうとしたそのときだった。
前方に、今にも消えそうな小さな光が見えた。光と呼ぶには頼りなく、吹けば消えるような輝き。
手放すこともできる。だが、ボクは走り出していた。消えそうなその光を、掴むために。
現実
まぶたがゆっくりと開く。
痛みはまだ残っているが、意識ははっきりしていた。周囲を見回したシュティーは、すぐに異変に気づく。自分の身体が炎に包まれている。
だが、それは焼き尽くす炎ではなかった。温かく、優しい炎――包み込むような熱だ。
傍らで、さらりと金髪を揺らす女と目が合う。
「お、起きた〜。ミオナちゃーん、シュティーちゃん起きたよ〜」
のんびりとした声。彼女は柔らかな笑みを浮かべた。
トトト、と軽快な足音が近づき、ミオナが駆け寄ってくる。
「シュティーさん! 良かった……生きてた……!」
涙をぼろぼろこぼすミオナ。動けないシュティーは、その涙を拭ってやることもできない。
「……今、どういう状況?」
シュティーの問いに、ミオナは涙を拭いながら答える。
「はい、あの後、瀕死だったシュティーさんを助けるために、リリーさんにお願いして治療してもらってたんです!」
「君が……リリー?」
「そうだよ〜。シュティーちゃん強いね〜、レガルド君に勝っちゃうなんて」
リリーは微笑みながら、シュティーの頭を軽く撫でる。
「なんとなくだけど……君がミオナちゃんをラグーザまで逃がしたんじゃない?」
問いかけに、リリーは驚いた表情を見せ、次いで感心したように笑った。
「すごい! そうだよ〜。まぁ結果的にシュティーちゃんを巻き込んじゃったのは、ごめんね」
深々と頭を下げるその姿に、敵意はまったく感じられない。本当にバスクファミリーの構成員なのか――そんな疑問を、ミオナが察して口を開く。
「リリーさんは、バスクファミリーの中で唯一、私のことを心配してくれた人なんです。マフィアとは思えないですけどね……」
「そうだね〜。危ないこと、基本的に嫌いだからね〜」
炎がふっと消える。
「あ、時間経っちゃった。もう一回やるね」
そう言ってリリーは再び炎を生み出し、シュティーを包んだ。
「変わった能力だね。炎系なのに治療系って」
「でしょ〜? 珍しいからってレガルド君からスカウトされたんだ〜。でも借金あって仕事詰めだったから、断ったんだよね〜」
「すごいね、君。レガルドの誘いを断るなんて」
「まぁね〜。脅されたけど、私、両親いないし友達もいないから、『借金なくなったらいいよ〜』って言ったら、レガルド君が借金取りの人殺しちゃってね。それで恩もあるし、能力が役に立つならって思って入ったんだ〜」
「そっか……能力だけじゃなくて、本人も変わってるんだな
シュティーは小さく笑う。
「でも、助かったよ。ありがとう」
30分後、炎の効果が切れる。シュティーはゆっくりと身体を起こした。傷はほぼ完治している。
「まだ動かないほうがいいよ? 私、全然治すし」
心配するリリーに、シュティーは首を振る。
「大丈夫。だいぶ良くなったし、現状を把握しておきたいから」
窓辺へ歩み寄り、外を見下ろす。制圧された構成員たちが護送車へと送られていくのが見える。
「……良かった」
小さく呟き、振り向いてミオナを見つめる。
「よし、これで今回の依頼は解決かな!」
「依頼……?」
「そうだよ! ミオナちゃんがボクに『助けて』って言ってくれたじゃん?」
ミオナは驚いた表情を見せ、すぐに少しだけ俯く。
「そ、そうですか……それは、ごめんなさい」
シュティーは励ますように、ミオナの手を握った。
「全然大丈夫! ボクはね、受けた依頼はしっかりこなすタイプだから!」
その笑顔に、ミオナもまた微笑みを返した。




