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クロード家の云々  作者: カキちゃん
第二章 
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第49話「全てを穢すもの」

シュティーの首を無造作に掴み上げるレガルド。その眼には、因縁の娘をこの手でねじ伏せた喜びが宿っていた。

「所詮お前はこの程度……父親が悲しむと思わないか?」


 力なく腕を垂らし、息も絶え絶えのシュティー。状況は、誰の目にも勝負が決したと告げている。

「まだ息があるようだから……最後の言葉でも聞いてやるよ」


 虚ろな瞳でレガルドを睨み返すシュティー。その瞳の奥には、なお消えぬ光があった。掴まれた首に手を伸ばし、彼女の掌から瘴気がじわりと溢れ出す。レガルドの身体を穢そうと。


「……はぁ。言っても分からないのは父親そっくりだな」

 レガルドは鼻で笑い、首を締める手に力を込める。

「お前の能力が“熱”に弱いのは知っている。体内で炎を循環させれば……その穢れた手など意味をなさない」


 炎が彼の体内を巡り、シュティーの瘴気は瞬く間に死滅していく。勝ち誇った声が、さらに畳み掛けた。

「お前の能力は誰かを救えない。ただ命を奪い、忌み嫌われる――悪魔の子。それがお前なんだよ、シュティー・クロード!」


 遠のく意識の中、シュティーは過去を思い出す。

 母を殺してしまい、壊れた心を抱えた自分を、拒絶せずに抱き締めてくれた父。あの温もりだけは忘れない。

 その父の死に関わる男が、いま目の前にいる。そして頭の中で助けを求める声が響いていた。


 ――ここで死ねば、何も残らない。

 罪を背負って生きるしかない自分でも、まだできることがある。そう心の奥底で叫ぶ声があった。


「ふん……終わりか。安心しろ、骨だけは残してやる」


 炎が一気に燃え上がろうとした、その瞬間。

 シュティーの瘴気が、レガルドの炎に触れた。


 ボウッ――。

 黒い炎が燃え盛る。レガルドの目が驚愕に見開かれ、首を掴む手が外れる。床に落ちたシュティーは薄目を開け、立ち上る黒炎を見た。

 それは炎から炎へと伝播し、さらに黒く燃え上がり――レガルド自身をも穢していた。


「クソッ……!なんだ、この炎は……!」

 必死に振り払おうとするが、黒炎は消えない。それは、もはや彼の炎ではなかった。


「どうしてだ……? お前の能力は熱に弱い……だから炎系能力者で固め――」

 言葉の途中で、レガルドの顔が「まさか」という色に変わる。


 朽ちかけた身体を押し起こし、シュティーは静かに告げた。

「……ははっ、正直盲点だったよ。“熱に弱い”って特性があるから、やろうなんて思いもしなかった。

 どうせ死滅するって……でも違った。ボクの能力は“熱に弱い”だけで、“炎に弱い”わけじゃない。

 触れれば……炎だって穢せる」


 拳を握り締めるシュティーに、レガルドが吠える。

「何が炎も穢せる、だ……! 熱に弱いのは変わらねぇ! このまま温度を上げ続ければ、いずれ死滅する!」


 室内の温度が急上昇し、立っているだけで息苦しいほどの熱気が満ちる。

 だが、黒炎は消えない。むしろレガルドの炎に呼応し、さらに勢いを増していく。


 シュティーは自分のスーツを腕に巻きつけ、それを黒炎…瘴炎で燃やす。瘴気を薪に変え、燃え盛る炎の拳を作り出す。

「レガルド……お前は自分の炎を至高とし、他者を道具とした。でも違う。どんな絶望的な状況でも、誰の心にも……今を変えようとする炎がある。」


「……ごちゃごちゃとうるせぇ! お前が死ねば、この炎も消える!」


 レガルドの炎が最大燃焼に達し、瘴炎の伝播が止まる。純粋な炎と炎がぶつかり合う瞬間だった。


 恐れはない。シュティーは全身を奮い立たせ、炎を裂くように駆ける。

 跳び上がった彼女の視界に、迫る炎の拳、当たれば死は免れない。


「……記跡の短剣、最後の一回!」


 空間に描かれた斬撃が、レガルドの意識を一瞬奪う。その隙を逃さず、炎を纏う拳を振り下ろした。

 レガルドには、先代ボスの姿がシュティーと重なって見えた。


「ボクはシュティー・クロード……全てを穢すものだ!」


 瘴炎の拳が直撃し、レガルドは瘴気に蝕まれながら床に崩れ落ちた。

 舞い上がる煙の中、揺らめく瘴気を消し去った少女――シュティー・クロードの姿だけが、そこに立っていた。



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