第48話「終焉の業火」Part3
レガルドの攻撃は、さらに激しさを増していた。炎が部屋を揺らし、壁や床を舐めるたびに、空気は焼けつくように熱を帯びていく。シュティーは防戦一方。むやみに突撃すれば、炎に巻かれ一瞬で焼き尽くされるだろう。
痛む身体に鞭を打ち、壁や家具を蹴っては距離をずらし、機動力だけで攻撃を捌く。だが状況は圧倒的に不利。能力もコンディションも、どちらも限界に近い。仮に万全でも勝てるか分からない相手だ。それでもシュティーは立ち向かう。目の前の敵を、必ず殺すために。
部屋の隅では、ミオナが二人の戦いをただ見つめていた。
自分のために、ここまで傷だらけになって戦う少女。
ーーどうして。どうして私なんかのために。
込み上げるのは、感謝ではなく、ひどい無力感だった。
「私さえ、いなければ……」
その思考は、じわじわと彼女を追い詰める。
やがてミオナは、戦う二人を横目に、静かに窓際へ向かった。
そっと窓を開けると、熱気を冷ますように夜風が頬を撫でる。
外の夜空は、こんな地獄とは対照的に、澄んだ星々が輝いていた。
一筋の流れ星が走る。ミオナは願う――「もう二度と、不幸がないように」。
高さは十分。足を踏み出せば、それで終わる。
しかし、身を投げた瞬間――腕が彼女の身体を強く引き戻した。
「……っ!」
ミオナが見上げた先には、優しく微笑むシュティーがいた。
大粒の涙を流すミオナに、彼女は小さく「ごめんね」と告げ、そのままそっと座らせる。
背を向けたシュティーの姿は、年相応の少女には見えなかった。
「そんな“道具”を助けて何になる?」
レガルドの声は嘲りに満ちていた。
「いっそ死なせた方がマシだろう。俺としては損害だがな」
「黙れ……」
低く、鋭い声だった。
「ミオナちゃんも、今までお前がなじってきた人達も……皆、お前の道具じゃない」
その怒りはレガルドに向けられたものだけではなかった。
助けると決めたのに、自分の目の前でミオナを自死に向かわせた――そんな自分自身への怒りでもあった。
痛みが全身を締め付ける。それでも、足は止まらない。
無鉄砲とも思えるほど真っ直ぐに、シュティーは炎の中を駆けた。
「バカが……!」
レガルドは練り上げた炎を、前方へ広範囲に放つ。
だが――肌で分かった。炎の威力が抑えられている。
ミオナを巻き込まないために、出力を下げたのだ。優しさなどではない。“道具として使える”から、それだけの理由で。
その隙を突き、シュティーは懐へ潜り込む。
刀が閃き、鮮血が舞う。続けざまに身体を翻し、記跡の短剣で斬りつけた。
「この……いい加減にしろッ!」
怒声と同時に、レガルドの炎が瞬間的に凝縮され、爆発力へと変わる。
轟音とともに黒煙が部屋を包み込む。
数秒後――煙が晴れた時、ミオナが見たのは、シュティーの首を無造作に掴み上げるレガルドの姿だった。




