第45話「因縁の扉」
フェルナを退けたシュティーは、燃え尽きそうな身体を引きずりながら、ミオナのいるであろう場所へと歩を進める。
「――戦いは、避けられないってわけか」
フェルナの言葉、「レガルド様のもとには行かせない」。
それが意味するものは明白だった。ミオナは今、レガルドと共にいる。ならば、シュティーが次に向かうべき場所はひとつしかない。
肉体の限界はとうに越えている。炎の爪痕が身体のあちこちに残り、疼痛がひっきりなしに意識を削る。
それでも、助けなければならない。かつて失ったすべてを、その手で贖うと決めたのだから。
ノクターリカの廊下は、想像よりも静まり返っていた。
煌びやかな装飾がされ、まるで城のような豪奢な造りの中に、敵の姿はない。
「自分一人で十分ってことか」
その傲慢さが、今のシュティーには逆にありがたかった。
廊下の突き当たり、一際重厚な装飾が施された扉の前で足が止まる。
ここだ。
鈍い音を響かせて扉が開かれる。
その奥にいたのは、玉座のような椅子にふんぞり返り、鋭い眼光を向けてくる一人の男――バスクファミリーの頂点に立つ男、レガルド・バスクだった。
「よく、来たな? シュティー・クロード」
男の笑みには余裕があった。
それは、この瞬間を待ち望んでいたという顔だ。
運命が交差する、因縁の戦いが始まろうとしていた。
ノクターリカ外
ノクターリカの外では、激戦を終えたCID部隊とディノが構成員の制圧を完了していた。
戦況はほぼ決着、残すは内部で対峙しているシュティーとレガルドの戦いのみ。
「後は任せるしかねぇか…」
腰を下ろし、ひと息つくディノ。その時だった――
「おーい、おやっさん、無事か~?」
あまりにも呑気な声が響く。振り返れば、アラタとバルタの二人がぴんぴんした様子で歩いてきていた。
「お前ら…無傷か?あの地下にいたんじゃなかったのか」
ディノは首を傾げる。だがアラタは、笑いながら答える。
「それがよ、変な女に会ってな」
回想 ノクターリカ地下
数十分前。アラタとバルタはノクターリカの地下で小休憩を取っていた。
その時、ふらりと現れたのが、バスクファミリーの構成員――リリーだった。
「あなた達、怪我してるでしょ?」
そう言って彼女は、自らの炎を穏やかに灯し、二人の傷に包み込むように纏わせる。
炎の温もりは痛みを和らげ、瞬く間に傷が癒えていった。
「お前、敵だよな?なんでこんなことを?」
アラタの問いに、リリーはにこやかに返す。
「ただ怪我してる人を放っておけないだけ〜マフィア向きじゃないんだよね〜私」
「……だろうな」
どこか納得したようにアラタは頷く。
治療を終えたリリーは、ひらりと身を翻す。
「それじゃ、行くところあるから。二人とも気をつけてね」
軽くウィンクをして、戦場を去るその姿は――まるで、天使のようだった。
現在
一通りの説明を終えたアラタ。全ては終わった――あとはシュティーが戻ってくるだけ。
誰もがそう思った、まさにその瞬間だった。
「……っ!?」
轟音がノクターリカ内から響き渡り、一室から爆炎が噴き上がる。
巨大な黒煙と共に、天へと向かう炎柱。
「――始まったな」
ディノが呟いた。
そこにいた全員が、ノクターリカの一室を見上げる。
運命の一戦、その火蓋は、今、切って落とされたのだった。




