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クロード家の云々  作者: カキちゃん
第二章 
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第43話「交わす空」Part2

夜空に煌めく一閃――

シュティーの手に握られた、金色に輝く短剣が月光を裂いた。


フェルナの眼が細められる。

直感が、あの短剣を「ただの武器ではない」と告げていた。


彼女は距離をとり、空中で旋回しながら火球を連射する。

烈火が屋上を覆い、爆ぜる爆音が響き渡る。


しかし、シュティーはその全てを読みきったかのように最小限の動きで躱し、

そのまま空へ向かって短剣を振るった。


――何も、起こらない。


(ただの……剣?)


フェルナが首を傾げかけた、その瞬間。


「ッ!?」


ザシュッ。


身体に鋭い痛みが走った。

空を翔けていた彼女の右脇に、鋭く刻まれた斬撃が走る。


明確な攻撃の形もなく、気配も、音すらもなかった。

ただ一閃。まるでそこに“斬撃”という現象だけが存在したかのように。


フェルナは眉をひそめ、シュティーの手元にある短剣を睨みつける。


「……その短剣、やっぱりただの武器じゃないわね」


シュティーは、にやりと笑う。



二日前――セシル邸。


裏口からヴァリーナの部屋に忍び込むように現れたシュティーは、窓をそっと開けて入る。


「やほ、ヴァリーナ」


「こんにちは、シュティー。……玄関から入って来ても良いのに」


「いや、あんまり目立ちたくなくてさ」


「でも、これから“目立つこと”をしに行くんでしょう?」


ヴァリーナは肩をすくめて微笑んだ。


「それで? 武器を作ってほしいって言ってたわよね」


「うん。次の戦いがちょっと大変そうでね……君の力を貸して欲しい」


「分かったわ。それで、“材料”は?」


シュティーは懐から、丁寧に布で包んだ小箱を差し出した。


ヴァリーナが箱を開けると、中には年季の入った万年筆。

その細やかな装飾と、手入れされた跡が、その“価値”を物語っていた。


「これを、武器に変えてほしい」


――ヴァリーナの能力《財貨置換》。

価値ある物品を、武器や道具に“変換”することができる能力。

そして、その物に籠められた「想い」までもが形になる。


「……これは?」


「ボクの父の万年筆。今はボクが使ってるけどね」


その瞬間、ヴァリーナの手が止まる。

声の調子が、明らかに変わった。


「……本当に、いいの? 一度置換したら、もう元には戻らないわよ?」


それは、彼女と亡き父とを繋ぐ、ただ一つの遺品とも言えるもの。


だが、シュティーの目は揺らがなかった。


「……うん。これは“使うべき時”のために残しておいた。今が、その時だと思う」


それでも、ヴァリーナの表情は晴れない。


「他の物じゃダメなの?」


「ダメじゃない。でも、これが一番ボクに力をくれる。……それに、君の能力を信じてる」


真っ直ぐな眼差しで、シュティーは言った。

その信頼に、ヴァリーナは観念したように微笑み、万年筆を握りしめた。


「……分かったわ」


置換の力が発動する。


万年筆に籠められた記憶と想いが、ヴァリーナの内側に流れ込んでくる。

父の字、父の言葉、父のぬくもり。

そして、それを見つめていた少女――シュティー。


彼女は静かに、一筋の涙を流す。


「……出来たわ」


ヴァリーナが袖で涙を拭うと、そこには美しい短剣が輝いていた。


黄金の刀身に、淡く揺らめく蒼白の光。

根元には黒いインクのような模様が浮かび、まるで“記された記憶”が刃の奥に息づいているかのようだった。


「名前はあるの?」


シュティーが尋ねると、ヴァリーナは静かに呟いた。


現在。


「千金武装《記跡きせき短剣(たんけん)》」


その名を告げながら、シュティーは短剣を掲げる。


刃の縁から、波打つような空気のゆらめきが広がっていく。


「――繋いだ想いで、君を倒す!」


その宣言に、フェルナは再び炎の羽根を広げる。


「……そう。それでも私は、あなたを討たなければならない。レガルド様のために」


彼女の瞳に宿るものは、恐れではなかった。


忠義。


自らの意思ではなく、背負わされたものかもしれない。

それでも彼女は、空を翔ける道を選んだのだ。


――戦いはなお続く。

見えない斬撃が、再び空を裂いた。


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