第39話「刻まれる絶望、燃える覚悟」Part2
薄暗い水路に、再び戦いの気配が満ちる。
覚悟を帯びた視線で、アラタはカリナを睨んだ。
「ギルティ…呪鎖、印。そして一旦、狂狼を解除。ギルティ…狂狼」
三つの“罪”が重ねられる。狂狼の効果はリセットされ、再び付与されたその瞬間、アラタの身体能力はさらに加速する。
水路の湿った壁を蹴り、アラタは跳躍を繰り返した。
「そんなに跳ねて、何が楽しいのかしら?」
カリナは呆れたような声を漏らした。
「これも作戦って奴だ、ちょっと待ってろよっと」
次の瞬間、壁の反動を活かしてアラタは急接近。刹那、カリナが刻印を押し込もうと右手を突き出す――が、その腕が、不意に引っ張られた。
「なっ……!」
思わず息を呑むカリナ。その手首を巻いたのは、水路の壁に残されていた“印”から放たれた呪鎖だった。戦闘中、アラタは跳躍の合間に壁や天井へ巧妙に印を付けていたのだ。
「おらよ」
アラタの拳が、真正面からカリナの顔面にめり込む。
「っ……良くも……殴ったわね……この顔を……!」
「そんなに顔が大事なのか? 俺的には、顔より性格を大事にした方がいいと思うがな」
余裕の表情で煽るアラタに、カリナの怒りが爆ぜる。
「ローズショット!!」
再び炎を纏った蹴りが飛ぶ。だが直前、またしてもカリナの足が呪鎖によって引き止められた。見えない何かに阻まれる感覚に、カリナの顔から余裕が消えていく。
「言ったろ? こっちの番だって」
アラタは呪鎖を巻きつけた腕を振るう。それは質量を乗せた鎖の塊、まさに"チェーンハンマー"。重くうねるその一撃が、カリナを裏口の扉へと吹き飛ばした。
「……こんなもんだろ」
勝利を確信したアラタは、扉へ向かって歩を進める。
だが、足首を“何か”が掴んだ。
「……?」
視線を落とすと、そこには――かろうじて生き延びていた“あの一般人”がいた。
「すまねぇ……でも、今は急いでる……」
アラタは払い除けようとした。だがその手が、何かをアラタの脚に“押し付けた”。
スタンプ。
瞬間、アラタの脚から炎が弾ける。通常よりは控えめな威力だが、火傷には十分すぎた。
「他人に……渡せるのか、それ……」
アラタが見ると、そこには生き絶え絶えのカリナの姿。
「えぇ……普段はあんまり使わないけど……発火は弱いし、一瞬だし……でも、使えるわよ」
その口元には、勝ち誇ったような、それでいてどこか空虚な笑みがあった。
「……まだ終わってないわよ」
ふらふらと立ち上がるカリナ。その脚はもはや言うことを聞いておらず、近づいてきてもアラタにとって脅威ではなかった。
「どうしてそこまでする?」
アラタの問いに、カリナはぽつりと呟く。
「さぁね……意地みたいなものよ」
「そうか……でも、もう休め。今のお前じゃ、俺を倒せない」
その言葉には、アラタなりの“情”がにじんでいた。
「嫌よ……ここで負けを認めたら……本当にアタシは……!」
――あの言葉が、胸に刺さっていた。
“お前は、自分が誰かの駒だってことも知らずに偉そうにしてるだけだ”
自分は、ただの使い捨ての部品じゃない。せめて、そう思いたかった。
「……はぁ、まったく仕方ねぇな」
アラタが手を掲げる。
「ギルティ……模倣」
その瞬間、アラタの手にカリナのスタンプが浮かび上がる。そして、それをカリナの肩へ。
ぺたり。
「とりあえず、そこに座っとけ」
能力によって動きを封じられたカリナは、その場に崩れるように腰を下ろす。
「まぁ……正直、俺も言い過ぎたとこあるからな。どっかに、お前をちゃんと見てくれる奴がいるんじゃねぇか? ……生憎、俺じゃねぇがな」
背を向け、扉へ向かうアラタ。
「私は……」
カリナはその姿を見送り、ぽつりとつぶやいた。炎ではなく、静かな余韻が水路に満ちていた。




