第38話「刻まれる絶望、燃える覚悟」Part1
薄暗い水路。その奥、重たく錆びた裏口の扉の前に、一人の女が立ち塞がっていた。艶やかな赤髪に、艶めくような微笑をたたえた女──カリナ。
アラタはその目前に立ち、ただ静かに構えていた。
「ここを通ってもらっては困るの。」
カリナが言った瞬間、アラタは地を蹴った。だが、その瞬間だった。
カリナの背後──暗闇の奥から数人の人間が姿を現した。アラタは一瞬で動きを止め、警戒して距離を取る。現れたのは、血と煤にまみれた一般人たち。男も女も、皆が「助けてくれ」と口々に訴える。
アラタの眉が動く。彼らは囚われていた者たちだ。騒動に乗じて脱出してきたのだろう。アラタは彼らをどうにか逃がそうと一歩踏み出す。すると、そのうちの一人──中年の男がふらりとアラタの方へ倒れるように駆けてきた。
反射的に抱き止めたアラタ。その瞬間だった。
「──燃えて、命を終えなさい。」
カリナが口元を歪めた。
直後、男の身体から突如、烈火が噴き出した。アラタは咄嗟にその手を離すも、男の身体は火に包まれ、水路の冷水にじゅうっと音を立てて倒れ込んだ。
「ッ……!」
アラタがカリナを睨みつける。
「……どうしたの?そんな怖い顔しちゃって?」
カリナは愉快そうに笑う。
「どうして……関係のない人を巻き込む……?」
アラタの声は低く、怒気を孕んでいた。
「どうして、ねぇ……この人たちは借金まみれの落伍者。どうせろくな人生にならないのなら、アタシたちのために“有効的に”死んだほうが、意味があると思わない?」
アラタの眼が細くなる。
「──人を……道具としか見ていない発言だな。」
「当然じゃない。弱者は強者に使い捨てられる、それがこの世界の真理よ?」
アラタは嘲るように口角を上げる。
「お前も──レガルドの道具だろうが。」
その一言で、カリナの笑みが凍り付いた。
「なんですって……?」
「図星か。お前は、自分が誰かの駒だってことも知らずに偉そうにしてるだけだ。」
カリナの眉が歪む。
「……じゃあ、ミオナはどうなの?あの子もずっと都合よく扱われてきた。アタシと何が違うっていうのよ!」
「違いは……アイツには道具ではなく“人であろう”とする意志がある。お前みたいに、最初から諦めて腐ったわけじゃない。」
アラタの声に一瞬カリナが言葉を失う。
その刹那、周囲にいた一般人たちがそろそろと逃げ出そうとする。
──パチン。
カリナの指が鳴る音が響いた。
「──燃えて、灰になりなさい。」
火柱。次々と一般人の身体が燃え上がり、その場に倒れ込む。
「もういいわ。あなたとの話は終わり。」
カリナは静かに右手を掲げ、空中にスタンプを出現させた。
「奇遇だな……俺もそろそろ終わらせたいと思ってたところだ。」
二人の間に、緊張が走る。
カリナの能力──刻印。対象に押すことで『操作』と『発火』の刻印を与える。操作されれば即終了、ゆえにアラタは常に距離を保つしかない。
だが、それを見越してカリナは動く。自らアラタに接近し、鋭く回し蹴りを繰り出す。
アラタは反射的に避ける──その瞬間、カリナの脚が燃えた。
「な……!」
「アタシの脚にも刻印してあるの。炎なんて怖くないもの。……アナタには痛いでしょ?」
炎への耐性を持つ能力者。己の身体に刻印を押しての攻撃。 さらに──刻印は人以外にも、壁や物にも有効。
アラタの行動範囲は、見えない火薬の上を歩くようなものだった。
(……詰めれば操られる…)
「どうしたの?もう終わり?」
「──ギルティ。“狂狼”」
アラタの身体が瞬間的に加速し、カリナとの距離を取る。
「逃げられると思った?」
カリナがナイフを取り出し、投擲する。アラタは強化された反応速度でそれを空中でキャッチ──次の瞬間、ナイフが爆発する。
「──ローズスターマイン」
複数の刻印を仕込んだ爆破術。その威力は尋常ではなく、アラタの身体を容赦なく焼いた。
「……ふふ、イケメンが台無し。でもその焼け跡も、悪くないかも。」
アラタの姿が、煙の中から現れる。
「……油断してたな……大技があるとは思わなかった。」
その身体は酷く焼けていた。だが、彼は立ち上がる。
「痩せ我慢? それとも……意地?」
アラタは静かに息を吐いた。
「ギルティ。“再生”」
彼の肉体が、一瞬で元通りになる。
「……っ!? 今の傷が……?」
「よし、第二ラウンドだ。今度はこっちの番だぜ──」
アラタの瞳に迷いはなかった。覚悟を帯びたその視線に、カリナの余裕が揺らぎ始めていた。
罪 再生の説明
あらゆる負傷を一瞬で回復させる。1日1回限定
罰は24時間の回復させた場所の感覚がなくなる。




