第3話「眠りの病」Part3
「──あなた、犯人だよね?」
静寂はその一言をきっかけに生まれた。
沈黙が場を包む。重く、息苦しいほどの空気。
それを破ったのは、目の前にいる医師の声だった。
「……あの、それより隣の方を診たいのですが。明らかに具合が悪そうですよ」
シュティーの隣でソファに座っていたアラタが、困惑したように顔をしかめる。
「いや、俺は大丈夫です。これは、能力のペナルティみたいなもんで」
そう言って、アラタはひらひらと手を振った。しれっとした様子だが、額にはうっすらと汗が浮いている。
医師──シンは、訝しげな目でアラタを見る。だがその視線はすぐにシュティーへと戻った。
「それでは……本日は、いったい何のご用で?」
シュティーはいつものように軽い口調で、だがどこか探るように言った。
「先生、最近この町で何か“病気”が流行ってるって、知ってる?」
意図的に“病気”という言葉を強調する。
シュティーの予想では、この医師──シンは、町で起きている異変を知らない。つまり、自覚なしに“事件”を起こしている。
数分後──
シュティーの説明を受けたシンは、驚愕の表情で立ち尽くしていた。
「……まさか……私の……っ!」
彼は医者でありながら、まるで罪を悟った子どものように小さな声で呟いた。
「……私の能力は《眠り薬》といって……眠りという“概念”そのものを、処方する能力なのです」
静かに、だがはっきりと語られる真実。
「つまりそれで……町の人が寝ていたってこと?でも、なんで変な時間に?」
シュティーが問い返す。
「……はい、本来なら、夜、決めた時間に寝るはずなのですが……お恥ずかしながら、私はまだ能力の制御が甘くて……。ランダムに、そして唐突に、眠らせてしまうことがあるのです……」
その顔には、明確な後悔が滲んでいた。
「でも、決して悪意があったわけではないんです。ただ……ただ、眠ってほしかっただけなんです。眠れない夜に苦しむ人に、少しでも休息を。私は、そんな“心の処方箋”になりたかった……それだけなんです……」
語られる言葉は真摯だった。シンの目に嘘はなかった。
シュティーは少しだけ考えるような素振りを見せて、ふと尋ねる。
「この“眠り”って、どれくらいで終わるの?」
「はい、その人に必要な睡眠分を満たせば……自然と目を覚まします。今後は絶対に、許可なく能力は使いません……本当に、ご迷惑をおかけしました……!」
深々と頭を下げるシン。その肩は震えていた。
だが──
「別にいいんじゃない? 今回はたまたま悪かっただけでしょ」
軽く言ってのけるシュティー。けれどその声には、優しさが滲んでいた。
「先生のおかげで、不安な夜を眠れる人がいるのは確かなんだし、能力自体はすごく有益だと思う。ただね──簡単に言うと、“ちゃんと練習しようね”ってこと」
シュティーはそう言って、いつものようににっこりと微笑んだ。
それはただの励ましじゃない。
「ま、また来るからさ。その時にはちゃんと、コントロールできるようになっててよ、先生」
その言葉は、シンにとってどんな薬よりも効いた。
医師は堪えきれずに、目元をぬぐった。涙だった。
「……はい、絶対に。次は──胸を張ってお迎えできるようにします」
彼の声には、もう迷いはなかった。
──終わり。
リメイクしたよー一応伏線貼っといた