第35話 「炎の檻を越えて」
夜の帳が落ちたトゥレーノに、巨大なカジノ施設「ノクターリカ」が浮かんでいた。 その周囲をぐるりと取り囲むように、CIDの武装部隊が展開する。暗視装置と戦術用通信機を身に着けた部隊の一角に、場違いなほど華奢な少女――シュティー・クロードと、鋭い眼光を湛えた男――ディノ・ファルクがいた。
シュティーの視線は真っ直ぐにカジノの中心を見据えていた。
「とりあえずアラタからの情報だと、ミオナちゃんは地下に捕まってるらしいけど……この騒動で移されてる可能性もある」
淡々とした口調。だがその瞳には、烈火のごとき決意が宿っていた。
「レガルドには気づかれてるかもな」
ディノが低く呟く。鋭く研がれた刃のような男は、既に刀の柄に手をかけている。
「警戒するのはレガルド、そして……あの炎の羽根の女。空中からの奇襲はCIDにはきつい。でも、この人数なら、どうにかなるかな」
小さく笑うシュティー。その笑みの裏には冷酷な計算がある。
CID部隊が前進を開始する。それに続き、シュティーとディノも動く。
だがその時、カジノの正面玄関から、ぞろぞろと構成員たちが現れた。おそらく百名を優に超える。
「バスクファミリー、これより先の事件を考慮し――強制制圧に移行すっ……!」
その言葉と同時に、銃声が響いた。CIDの指揮官が撃たれ、地面に崩れ落ちる。
即座に突入命令が下される。閃光弾が夜空に咲き、銃声と怒号が入り混じる中、シュティーとディノも戦場へと足を踏み入れた。
「ディノは構成員の掃除お願い、ボクは中へ向かう」
「了解だ、お嬢」
ディノは抜刀し、次々と迫る構成員を斬り伏せる。
敵は全員、炎系統の能力者。それも一定以上の戦闘訓練を受けている。
――だが、ディノの前では、その数も無意味だった。
一方、建物の中へ急ぐシュティー。その時だった。
ゴォォッという轟音と共に、紅い閃光が天から降り注ぐ。
「っ……!」
シュティーの身体が紅の光に包まれ、空中へと引き上げられる。もがくが、力は強大だった。
着地したのは、カジノの屋上。
「デートのお誘いって訳じゃなさそうだね?フェルナちゃん?」
皮肉交じりに放つシュティーの声。
「そう……私の名前、知ってるのね」
静かに語るその女――燃え盛る炎の羽根を背に持つ、バスクファミリーの幹部・フェルナ。
「貴女をレガルド様のもとには行かせない。ここで死んでもらうわ」
羽根が大きく広がり、夜空を灼く。
「レガルドには興味ないけど……急いでるんだ。構ってる暇はないよ、キミに」
シュティーは、わずかに笑う。だがその笑みは氷のように冷たい。
――場面転換:ディノ
屋上に連れ去られたシュティーを視界の隅で確認しながらも、ディノの足は止まらない。
彼の信頼は絶対だった。シュティーは負けない。
炎と刃が交錯する戦場で、ディノは構成員たちを圧倒する。
だが。
ガキンッ、と甲高い音。
神速の太刀が、一本の刃に阻まれた。
「ほぉ……坊や、なかなかやるじゃねぇか」
対峙するのは、無表情の青年。
構成員たちが歓声を上げる。
「リオ様が来てくれた!老いぼれをやっちまってください!」
ディノの目が鋭く細まる。
「お前、幹部ってとこか?……無口すぎて退屈だな」
言葉は届かず、リオの剣が唸る。
静かに、だが確かに、決闘の幕が上がった。
――場面転換:アラタとバルタ
二人は裏口へと繋がる地下水路を疾走していた。
「あとどれくらいだ、アラタ!」
「10分もあれば着く……けど、警戒は怠るなよ」
その時だった。
暗闇の奥から、黒い影が猛スピードで飛び出す。
「っ……鉄皮」
バルタが咄嗟に拳を鉄に変え、受け止める。
影は人型。だがその体は機械と化していた。
「ほぉ!我が発明品を受け止めるとは」
現れたのは、白髪の老人。溶接眼鏡をかけ、狂気に満ちた笑みを浮かべていた。
「ギルティ……狂狼」
アラタが能力を起動し、突進。
だが老人は、大砲のような機械を構え、炎を放つ。
「反応速度も素晴らしい……これはいい素材になるかもしれんな」
「誰だ、お前……!」
「名乗るなら……そうじゃな、天才発明家ドロマとでも言っておこうか」
異形の気配が満ちていく。
「アラタ!こいつと発明品は俺が抑える!お前は行け!」
「……わかった。頼むぞ、バルタ」
「ギルティ……呪鎖」
手のひらから伸びた鎖を天井に突き刺し、アラタは跳躍。ドロマの背後へ抜ける。
「行かせるかっ!」
大砲が再び火を噴くが、バルタが立ちはだかり、ドロマへと突っ込む。
「なかなか頑丈な身体をしてるな?」
「褒められても嬉しくないな、気味の悪いジジイに」
「これは試作品だが……お主の身体で、更なる傑作が作れるかもしれんな」
「俺を倒せたらな?」
――場面転換:アラタ
裏口に到達したアラタは、扉を蹴破ろうと足を上げる。
だがその時、扉に描かれた紋様が淡く光り、炎を噴いた。
咄嗟に身を引くアラタ。
「また会ったな」
現れたのは、艶やかな声の女―カリナ。
「そうね。あの時は“シェイド”の姿だったけど……今の方が好みかも。なかなかのイケメンね」
「そこどいてくれるか?」
アラタの声は冷ややかだった。
「せっかちさんね。アタシと遊んでくれてもいいのに」
「女は好きだが……お前みたいな性悪女はごめんだ」
「あら残念。でもそんなとこも、好きよ?」
カリナの眼が妖しく光る。
こうして――クロード家とバスクファミリーの、火花散る戦いが幕を開けた。




