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クロード家の云々  作者: カキちゃん
第二章 
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第32話「赫焰の刻印」

ルナーレ大聖堂。その石造りの荘厳な空間の下に、人知れず広がる薄暗い地下水路がある。

その水の流れる音が反響する中、一人の男が立っていた。

バスクファミリーへの潜入を命じられたアラタ──変幻によって、姿はあの刺客“シェイド”そのものとなっていた。


「じゃあ行ってくるわ」


軽口のように言うその声に、隣のバルタが渋い顔をする。


「能力は模倣してくか?」


「いや、模倣して罪が使えなくなる方が痛い。……最悪、敵の能力を拾うかだけど、運任せだな」


淡々とした口調の裏に、アラタ特有の妙なワクワク感が滲んでいた。


この任務はタイムリミットつき。変幻の効果時間は一時間。それを過ぎれば正体が露見し、確実に戦闘になる。それでもアラタは楽しんでいた。──"ボス"からの任務。それだけで、彼の中には小さな火が灯っていた。


「ミオナも助けられたらいいが……ま、期待はしすぎねえ方がいいか」


「頼むぞ、アラタ」


バルタの言葉を背に、アラタは古びた祭壇の裏手にある隠し口から、水路へと滑り込んだ。


灯りもほとんど届かぬ水路の中。足音と水音だけが響く。ミオナの記憶で得た水路の構造が、今この時ほどありがたく思えることはない。

壁に手を添え、慎重に進みながらも彼は余裕の足取りでズンズンと進んでいく。


──10分後。


「ここだな」


記憶にあった鉄の柵。外からは開かず、通常なら完全に行き止まりとなる場所。しかし、今の彼にとっては違う。


「帰還した。開けてくれ」


低く響かせた声に、陰から一人の構成員が現れた。やつれた顔に緊張感を浮かべながら、頭を下げる。


「シェイド様、お疲れ様です。見事、敵を二人とも──」


「あぁ。なかなか手強い相手だったが、俺に敵うわけがない」


とぼけるように言いながら、アラタはさりげなく構成員の肩に手を置いた。


「ギルティ……追体験」


小声で呟いた瞬間、構成員の記憶が彼の脳裏に流れ込む。柵の管理任務、悲鳴が響く地下の部屋、そして──艶めいた女との会話。


「どうされましたか?」


構成員が怪訝な表情を浮かべる。


「……いや、何でもない。続けてくれ」


アラタはそう言い残し、無言のまま先を急いだ。


記憶の中の女の姿──目元に艶を宿し、どこか挑発的な笑みを浮かべるその女が、実際に現れたのはそれからまもなくのことだった。


「あら、もう戻ってきたの?」


緩やかに腰を揺らしながら歩み寄ってきた女。その名を、アラタはすでに知っていた。


「ご苦労さまです。カリナ様」


「“様”なんていらないわよ? アタシたちの仲なんだから」


戯けたような笑み。その言葉の調子も、しなやかに絡む蛇のようだった。


「いえ。“幹部”であられるカリナ様に、失礼な態度は取れませんので」


アラタはあえて距離を保つような口調を選んだ。──記憶に残る“シェイド”の言い回しに寄せながら。


「ふふっ、本当イケずなんだから。……ねえ、シェイド。見ていかない? 今ちょうど一人、拷問してたの」


そう言って彼女が導いた先、鉄の扉の向こうからは、焦げた肉の匂いと男の呻きが漏れていた。


部屋の中央には、火傷まみれの男が縛られていた。皮膚は裂け、ところどころ焼き爛れている。


「この男は?」


「うちのカジノでイカサマをしてたの。どうやら政治家と繋がってるらしくてね。レガルド様が、その政治家を丸め込みたいって」


カリナはそう言いながら、男に歩み寄り、手をかざした。アラタの視線がその手元に集中する。


そこに現れたのは──“スタンプ” 無機質な模様を刻むそれは、男の胸元に薔薇の印を浮かび上がらせた。


「ほら、早く吐いたほうがいいわよ?」


「クソっ……てめぇらクズどもに、誰が……!」


男は頑なだった。アラタは直感で悟る。こいつは、何をされようが屈しない。


「そう。残念ね」


カリナがそう告げた瞬間、薔薇の刻印が赤く輝き、男の胸から炎が噴き出す。


「──ッああああああああッ!!」


絶叫。カリナは愉しげに眺め、そしてもう一度スタンプを押した。


「人の心まで操作できたら楽なのに」


男の体は焼かれ続け、そしてついに──命の灯が消えた。


「まったく……」


カリナはふうっと吐息をつくと、アラタの胸に身を寄せた。


「アタシ、これでも頑張ったのよ? ちょっとくらい、褒めてくれてもいいんじゃない?」


戸惑いながらも、アラタは形式的に彼女の身体に腕を回す。これで模倣の条件は整った。


具現化による刻印。誘発する炎。さらに口ぶりからして、人の操作の要素も含まれる可能性が高い。──危険な能力だが、使える。


アラタはさりげなく彼女から距離を取ると、恭しく頭を下げた。


「カリナ様。これよりレガルド様に報告がございます。行ってもよろしいですか?」


「えぇ、いいわよ? レガルド様にも、ちゃんと伝えて。男は“舌を噛み切って自害した”ってね」


含みのある笑みを浮かべるカリナの言葉に頷き、アラタは踵を返す。


──残り時間、30分強。


この先には、レガルドが待つ。緊張の一瞬は、まだ始まったばかりだった。



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