第31話「灰下の潜影」
サンティーノ島の夜は静寂に包まれていた。人気のない遺跡の一角で、アラタとバルタが身を潜めるように腰を下ろしている。そんな折、バルタの携帯が震えた。
「……ボスからだ!」
通話を繋げると、懐かしい声が耳をくすぐった。
『あ、もしもし? そっちはどう?』
「ボス! 大丈夫なのか!?」
バルタは立ち上がりかけ、慌てて声を抑えた。
『とりあえずね。それで、そっちは何かあった?』
任された裏口の調査。バルタは報告を簡潔にまとめる。
「ボスが言ってたバスクファミリーに繋がる裏口は見つけた。そして…こっちにも刺客が来ていた。だが殺さず抑えてある。アラタの変幻で俺達が始末されたってレガルドには伝えてあるが……このままだと勘付かれるかもしれん」
『なるほどね』
シュティーの声が一瞬だけ沈黙を挟んだ。考えているのが声の温度から伝わってくる。
『一応、3日後に突入予定だけど……その前に対策はしておきたいね』
その言葉に、バルタは続けて提案を求めようとしたが、シュティーの声が再び続いた。
『ねぇ、バルタ? アラタ居るでしょ? 代わってもらっていい?』
携帯を差し出されたアラタは首をかしげながらも受け取る。
「ボス! 無事だったのか?」
『うん、結構ギリだったけどね』
穏やかな声に一瞬だけ安堵するが、すぐに次の言葉が飛び出した。
『その、刺客の姿になって先に調査できる?』
「……はい?」
思わず耳を疑った。だがシュティーは真剣だった。
『このままじゃレガルドに怪しまれるでしょ? だからアラタに変幻で潜り込んでほしい。あわよくば、ミオナちゃんを先に助けてほしいの』
その提案は、危険極まりない——だが同時に、アラタの血を沸かせる類の話だった。
「……良いな、それ。変幻の持続は1時間だけど、疑われるよりマシか。やってみる価値はある」
『うん、じゃあお願い。ボクは一旦ラグーザに戻って、やること済ませたら乗り込む準備する。当日の詳細は、前日に連絡するね』
「了解だ、ボス」
電話を切ったアラタは静かに息を吐いた。すぐ隣で聞いていたバルタが声をかける。
「……本当に大丈夫か?」
「もちろんだ」
アラタは口角を上げる。
「これでも長年、クロード家の偵察としてやってきた。変幻での潜入なんて、朝飯前さ」
バルタはふっと笑い、肩をすくめる。
「お前が言うなら、信じるさ」
こうして、夜明けとともに、2人の“潜影”が始まる。レガルドの牙城へ、ひとつの影が忍び寄ろうとしていた——。
一旦細かく話作るフェーズ、思ってたより早く2章終わりそうやから




