表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロード家の云々  作者: カキちゃん
第二章 
32/91

第30話「灰に交わる手」

視界に広がるのは、白い天井。

薬品と消毒液が混ざったような匂いが鼻をつき、柔らかなシーツが体を優しく包んでいた。


「……ここは」


シュティーはゆっくりと身を起こす。

左肩に痛みはない。背中の裂傷も、刺客から受けたはずの傷の数々も、感覚として存在しなかった。

あまりにも違和感があった。生きているとは思えないほどの静けさ。だが、これは間違いなく“生”の中の静寂だった。


外の空は薄闇に染まり、夜を迎えようとしている。

彼女は思い出す。刺客との戦い、刺客の狂気と、住民を庇った自分の左肩。――そして最後に見た、駆け寄るディノの姿。


その時、病室の扉が音もなく開いた。

入ってきたのは、濃いグレーのスーツに身を包んだ、年の頃は50代半ばの男性。

背筋は伸び、目には老練さと威厳が宿っている。


「起きたようだな、シュティー・クロード」


その一言で、彼が何者であるかを察するのに時間はかからなかった。

シュティーは軽く笑う。


「初めまして、でいいのかな?――CID局長さん」


局長は微かに口元を緩めたが、表情に揺らぎはない。


「派手にやったようだな?」


「まー、ボクが始めたわけじゃないんだけどね」


シュティーはベッドの上で足を組み、会話の主導権を探るように答える。

局長は、その仕草すら計算のうちとばかりに続けた。


「そうだな。今回お前を襲ったのは、バスクファミリーのギルバート。住人も、お前がそいつを止めたと話している。……命を救われたという老人もいた」


「ふーん、それでボクをこんな高待遇で病院に入れて、治療までしてくれたと。――ありがとうね?」


その声色には、礼の裏に潜む警戒が滲む。

局長はそれを承知の上で言葉を重ねた。


「ここはCIDの管轄病院だ。最高峰の治療能力者が揃っている。そして……」


一拍。


「お前が、バスクファミリーへの強襲を企てていることも把握している」


その言葉に、シュティーの瞳がわずかに揺れる。


「前半は分かるよ。街のために戦ったって名目。でも後半……どうしてそれが関係あるの?」


「理由は簡単だ」


局長は椅子を引いて腰を下ろし、落ち着いた声で語る。


「お前たちクロード家が、バスクファミリーに勝てる見込みはあるか? 正面からでは難しいと見ているのだろう?」


図星だった。

だから裏口から静かに潜り込み、ミオナだけを救うというプランを立てた。


「なるほど。つまり……協力してくれるってこと?」


「そういうことだ」


局長は短く頷いた。


「バスクファミリーは、もともとCIDにとって“脅威”だった。だが、貴族、政治家、富裕層……多くと繋がっている。手を出せば面倒が多かった。しかし今回――構成員の一人が公衆の面前で能力を使い、被害を出した。これを機に動かない手はない」


言葉の端々に、長年の葛藤と計算が感じられた。

しかし、シュティーはすぐに頷かない。警戒心は緩めなかった。


「……でも、なんで? マフィアに手を貸すのが正義のCIDのする事かな?」


その問いに、局長は初めて――ほんのわずかに――微笑んだ。


「ある男と……“約束”をした。それだけだ」


「……約束?」


聞き返すシュティーに、局長は何も言わない。

それ以上は語らない、という線をはっきりと引いていた。


それでも彼の言葉は嘘ではないと、シュティーはどこかで感じていた。

胸の奥に、わずかに宿る“信じたい”という感情が疼いた。


「それで? 突入はいつにするの?」


「早くて三日後だ。部隊編成もあるし、お前も今は回復に努めるべきだろう」


「オーケー。それで行こう」


シュティーはベッドから降り、軽く伸びをした。

そして局長に向き直り、手を差し出す。


「それと……ボクをラグーザまで送ってくれない? やる事あるから」


「わかった。ヘリを手配する」


局長は立ち上がり、彼女の手を握り返す。


その瞬間――交わったのは、正義と悪、策略と願い、信頼と警戒。

それは、火の中の灰のような契約だった。


だんだん進んでいくよ〜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ