第28話「炎晒し」Part2
空を裂く音。
回転しながら迫る炎の鎌──それは猛禽の爪のように獰猛で、街のあらゆるものを燃やし尽くそうとする意志を纏っていた。
だが、それを前にしても、シュティーの瞳に宿るのは怯えではない。
怒りと冷静。その二つが同居する、強靭な意志だけだった。
「攻めるしかないか……!」
シュティーは決断した。防御に徹すれば、街が燃える。人が死ぬ。
ならば、先に仕留める──短期決戦。
二つの鎌が空中を滑るように舞い、弧を描いて襲いかかる。
シュティーは最低限の動きで、それらの軌道を逸らす。
ただの斬撃ではない。建物の壁面を背にする角度、逃げ遅れた住民との距離、風の向き──全てを計算し、鋭く、かつ繊細に“ずらす”。
火花と灰が舞う中、シュティーは敵との距離を詰める。
鋭く踏み込み、刀を振るう。空気が裂ける音がする──
だが、
「──ッ!」
炎の鎌が、鋼の如き火炎の壁となってシュティーの刀を受け止める。
刺客は手持ちの鎌を使って応じ、その瞬間、浮遊していた二つの鎌が後方から襲いかかる。
「チッ……!」
刹那、シュティーは後方へ跳ね、鎌の軌道を読み切り紙一重で躱す。
だが、再び距離が開く。
戦況は五分──いや、条件を含めれば刺客が上。
(こっちは建物、住民……守るものが多すぎる)
相手は、炎を纏った鎌を自在に操作する中距離型。
しかも、近距離では自らの手で直接振るう。完全な遠近対応。
対してこちらは、瘴気という“広域に影響を及ぼす力”を封じている。
(使える鎌は四本……操れる数は制限がある)
そう仮定し、再び前へ出る──その瞬間だった。
視界の端で、逃げ遅れた老人の姿が目に入る。
刺客もそれに気づき、ニヤリと笑う。
「ッ──!」
炎の鎌が、老人めがけて飛ぶ。
軌道は変わらない。このままでは、確実に直撃する。
「──ぐっ!」
シュティーは叫びと共に走った。
刀ではない。躱すでもない。ただ、一歩前に出る。
そして──
ザシュッ!
肩に灼熱が走った。
炎の鎌が、シュティーの左肩を貫いた。
だが──老人は無事だった。
シュティーの肩から出た煙と焦げる匂いの中、彼女は微かに笑みを浮かべる。
「……早く逃げて」
肩に食い込んだ鎌は、シュティーの体内で一瞬だけ燃え、それからすっと消えた。
どうやら、この能力は鎌を自在に具現・消失させる性質を持っているらしい。
「所詮はガキだな。マフィアのボスともあろう者が、人を守るとは……」
刺客があざ笑うように言う。
「お前のボスがどんな理念を掲げてようと、ボクたちは……住民を巻き込まない。それだけは絶対だ」
左肩は使い物にならない。痛みは全身に響き、吐き気すらする。
だが、今逃げれば、次は誰が死ぬ?
「腕一本で勝てると思ってるのか?」
そう言った刺客の背後から──
「お嬢ッ!!避難は完了した!!」
ディノの声。
それは、足枷が解かれる合図だった。
「……なら、ここからは本気で行かせてもらうよ」
そう言った次の瞬間には、シュティーの姿は刺客の目前にあった。
左肩をかばいながらも、その刀捌きは研ぎ澄まされ、炎の鎌2本を同時に弾き飛ばす。
刃と刃が火花を散らし、鋼と炎が交錯する。
下から上へ──
シュティーの一閃が、刺客の胴を切り裂く。
「がっ……!」
だが刺客も痛みに耐え、手持ちの鎌をシュティーの首へと振るう。
──次の瞬間、刺客の表情が変わった。
驚愕。理解不能。動揺。
それが、彼の顔に浮かんだ。
シュティーは、左腕でその鎌を受け止めていた。
「……左肩やられた今、もうこの腕は使えないんだ。だったら──」
その瞬間、シュティーの指が弾かれた。
ピッ──
飛び散る血液。その血は、彼女自身の傷口から流れたもの。
そしてそれは、穢れていた。
刺客の片目に、その血が入る。
直後──彼の目が黒く濁る。
「……ぐッ!?」
激痛が走る。
刺客は悶えながらも攻撃を止めない。
鎌を構え、再びシュティーを狙う。
だが、後方から迫る二つの炎の鎌に対し──
(……今しかない)
シュティーは、それを無視した。
二本の鎌が背中を切り裂く──
ザシュッ!
鮮血が宙を舞い、服が赤く染まる。
その痛みの中でも、シュティーは前を見据え、刀を振るう。
だが、刺客はまだ鎌を持っていた。
左手の鎌で、再びその一撃を止める。
勝負は五分──そう思われた。
「……捕まえた」
その瞬間、シュティーの掌が刺客の腹部に触れる。
瘴気。
シュティーの体から流れるその黒き霧が、敵の肉体を蝕んでいく。
刺客の左腕が震え、力を失い──その手から鎌が消える。
「な……っ」
気づいた時には遅かった。
シュティーの刀が、一直線に刺客の首を斬り裂いた。
熱を帯びた空気が、一瞬、静まり返る。
そして、遅れて倒れる音が響いた。
「──はぁっ……はぁっ……」
刀を下げ、血に染まりながら、シュティーはふらつきながら後ずさる。
左肩からも背中からも血が溢れ、呼吸すら苦しい。
そして──そのまま、膝をついた。
「……ったく……ボクが……」
そこまで呟いた時。視界が大きく揺れ、色彩が滲んだ。
最後に見えたのは、こちらへ駆け寄るディノの姿。
焦り、叫び、何かを呼びかけていた。
でももう、言葉は耳に届かなかった。
シュティーの視界は、黒く閉じていった。
タイトルの「炎晒し」は街なかで仕掛けるから、炎を晒すって意味っす




