第27話「炎晒し」Part1
数時間前、アラタとバルタがサンティーノ島に降り立つより少し前。
シュティーとディノは、ミオナがラグーザに来るために使った港を探していた。
ラグーザ──セルカ島東岸に位置する海沿いの中核都市。
ソルズカ共和国本土からセルカ島へは、船か飛行機しか手段がない。だが、飛行機は厄介だ。搭乗記録、ID、監視カメラ、あらゆる記録が残る。
ならば、答えは一つ。
船──しかも、非公式な手段だ。
船舶の監視が甘い小型漁船を利用し、金で口を塞ぐ。それが最も自然な逃走ルート。
そして、シュティーたちはその“可能性”を追い、ラグーザ南東にある旧港町「アルバ・セッカ港」にたどり着いた。
かつては交易の拠点として栄えていた場所。だが今では、古びた船と時間の止まったような桟橋が、静かに潮風にさらされている。
「こんにちは〜」
木板のきしむ音の中、シュティーが軽快に声をかけた。
「おう、なんだお嬢ちゃん」
応じたのは、50代くらいの漁師。無精髭に日焼けした肌、いかにも“港の人間”といった風貌だ。
「二日前くらいに、女の子を乗せたりしてない?」
「……CIDか?」
男が警戒心を露わにする。
だが、シュティーは一切の迷いもなく、平坦な口調で返す。
「クロード家。って言ったら分かる?」
男の眉が一瞬だけ動く。やがて、ふっと力を抜くように肩を落とした。
「……他に口外しねぇなら教えてやる。確かに二日前、少女を乗せた。“訳あり”って感じでな。目に焦りがあった。金を積んできたから、俺も用事があったついでにこの港まで乗せてやった」
「ありがとう。それと、もう一つ。そうだな……一週間前くらいでもいい。他に誰か、“どこの港に行くか”聞きに来た人はいなかった?」
男はしばらく考え込み、それから思い出したように口を開いた。
「……ああ、いたな。正確には一ヶ月前か。女が1人、“スカーレ・ノルテ港”についてやけに詳しく聞いてきた。『いつもここから何処に行くか』とか、『いつ頃なら停泊してるか』とかよ。あれは印象に残ってる。べっぴんさんでな。ああいうのは忘れん」
シュティーは静かに頷いた。
想像していた通り──いや、それ以上に“確信”に近づいた。
ミオナは、協力者によって逃された。しかも、その逃げ道は“偶然”ではない。
導かれるように、ラグーザへ。
導いた者が“敵”なのか“味方”なのか、それはまだ判然としない。
もし意図的にこの街へと向かわせたのなら、それはレガルドの意向と繋がっている可能性すらある。
「…お嬢ちゃん、大丈夫か?」
気がつけば、漁師が心配そうに声をかけていた。
どうやら、黙り込んでいたのを気にされたらしい。
「ん?あぁ、ごめんね。とりあえず、いろいろありがとう。はい、これ」
シュティーは札束を手渡し、軽く会釈する。
「お嬢、何か考えてたようだが?」
ディノも気づいていた。シュティーの顔から、あのいつもの“余裕”が消えていたのを。
「うーん……正直、あんまり期待できないかも。協力者がいるなら味方につけたい。でも、敵の可能性もあるし。今はまだ、ボク側から動くのは危ないね。バルタたちから連絡があるまで、ミオナちゃんの足取りをなぞってみるよ」
そうして2人は、港の近くの「カミラ・クローチェ地区」へと足を運んだ。
人通りは少なく、古く静かな街並み。ここにミオナは確かに立ち寄ったはず。だが──
「……調べても意味ないかもね」
そう、シュティーがつぶやいたその瞬間だった。
ゴォォォォ──!!!
風を裂くような轟音。
視界の端から飛び込んできた“何か”が、灼熱を纏い、まっすぐにシュティーを貫かんと迫る。
──炎の鎌。
刹那、シュティーは反応した。
その身から刀を抜き、疾風の如く抜刀──火花が散る。
鎌が弾かれ、道路脇の壁に衝突し、火が上がる。
「……ディノ!街の人を避難させて!」
シュティーの声が、少女ではなく“ボス”のものになる。
「この街は巡回も薄いし、年配の人も多い。時間との勝負だよ。特に自力で逃げられない人を優先して!CIDへの通報も!」
ディノは即座に動き出す。だが、間髪入れず──
第二の鎌が空を切り裂いた。
回転を帯びており速度が速い。
シュティーは受ける。が、その直後、背後から三つ目の鎌。
「……クソッ!」
一つ目を弾き飛ばし、ギリギリで身を捻って躱す。
しかし、その鎌は避けられたことを意に介さず、建物に衝突し、火が燃え広がる。
CID部隊の到着は──早くて1時間後。
その間、逃げ遅れる住民は必ず出る。
能力を使えば巻き添えにする危険がある。
何もかもが“詰んでいる”。
「……おい!隠れてないで出てこいよ!!」
シュティーの声が、怒りに満ちる。
誰かがボクを狙うのはいい。でも──
街を、住民を巻き込むやつだけは絶対に許さない。
そんな彼女の前に、1人の男がふらりと姿を現す。
その手には、炎を纏う2本の鎌。
背後には、宙を回転し浮遊するさらに2本の鎌。
具現化。そして操作。そして悪意の炎。
「どうせ、レガルドからの刺客なんでしょ?」
シュティーの問いかけに、男は静かに口を開いた。
「ボスからの命令。それもあるが……俺は、お前を倒し、あのいけ好かないガキよりも有能だと証明したい。それだけだ」
「……そうか」
シュティーは、静かに──だが、底から震える声で返す。
「つまらないな」
刀を構える。
「まぁいいや。お前はボクが殺る。」
──その言葉の瞬間、風が止まった。
街の空気が、薄く歪む。
怒りと覚悟が、静かに刀に宿る。
戦いの幕が、今──開かれようとしていた。
舞台設定イタリアモデルです。ラグーザなのは偶然。ほんとだよ




