第26話「火の通り道」Part2
燃え盛る猟犬が、絶え間なく襲いかかってくる。
能力者本体を追いたくても、猟犬のスピードと炎がそれを阻む。
「正直、八方塞がりだな……」
アラタは呻くように呟いた。「この犬、俺の《狂狼》を上回るスピードだ。追っても途中で足止めされる。能力者は逃げ放題だ」
そしてなにより——。
「最悪なのは、この島を出られて仲間を呼ばれることだ。ボスも言ってたが、俺たち二人で相手できる数じゃなくなる。今ここで、本体を仕留めるしかねえ」
「じゃあ、俺が二匹を足止めする」
バルタが静かに言い放つ。「お前はケリをつけろ」
アラタはバルタを一瞥し、無言で頷く。
そして即座に扉に向かって走る。
猟犬の一匹が追おうとするが——その寸前、バルタが鋼鉄の脚で蹴りを入れ、進行を阻止した。
アラタは外に飛び出す。右方向——視界の先、およそ100メートル。
黒いシルエットが逃げていく。
「逃がすかよ!」
《狂狼》による身体強化で、アラタは風のように駆ける。
男が気配を察し、立ち止まり散弾銃を構える。
——発砲。弾丸がアラタの胸を穿つ。
が、貫けない。
「くっそ……いてぇな!」
アラタの身体は、バルタの《鉄皮》を模倣していた。
銃弾は防いだ——が、痛みは容赦なく響く。
「だがな、それはそれとして……!」
痛みを振り切るように、アラタが男の懐に右ストレートを叩き込む。
男は吹き飛ぶ。だが即座に立ち上がり、左手を掲げた。
——炎を纏った猟犬が、地面から現れる。
(チッ、再召喚か……)
「だがな、もう効かねぇよ!」
アラタは叫ぶ。狂狼と模倣の効果終了の直前、タイミングを見計らっていた。
「ギルティ、《呪鎖》!」
続けて——
「ギルティ、《印》、ギルティ、《模倣》!」
アラタの足元に、炎を纏った猟犬が現れる。
アラタの右拳が男を殴った瞬間、模倣条件はすでにクリアしていた。
男が目を見開く。「……ッ!」
「アンタの能力、借りるぜ。犬ども! そこのバカ犬を抑えとけ!」
アラタの猟犬が命令通り、男の猟犬を包囲する。
銃を構え直す男。だが——アラタの肩から、呪鎖が這い出る。
(ここが決め時だ……!)
アラタは肩に《印》を仕込んでいた。呪鎖は男の銃の軌道をわずかにずらす。
さらに呪鎖はアラタの右腕に巻き付き、螺旋状に形を変えていく。
「バカ犬の飼い主には、キツい一発入れねぇとな!」
重く、見えない質量を持った“鎖の塊”が、男を打ち据える。
ドゴッ——!
空気を裂く音と共に、男の身体が地面に叩きつけられた。
動かない。どうやら気絶したようだ。
「名付けて《チェーンハンマー》……バカ犬の失態は、飼い主が拭くもんだぜ」
アラタがドヤ顔で言ったそのとき——。
「おーい、アラター! 大丈夫かー!?」
バルタが駆け寄ってきた。
「おう、なんとかな……他に敵は?」
「いや、いねぇ。単独行動ってことは、ある程度信頼されてる奴だろうな。……ところで、その犬は?」
バルタが指差す。アラタの足元にいる、炎の猟犬。
「こいつの能力、コピーしたんだよ。……ただ、これ解除したらペナルティえげつねぇから、一回寝るわ。バルタ、こいつ縛っといて。後でいろいろ聞く」
---
30分後——。
アラタと、倒れた男が目を覚ました。
バルタは男に銃を向けたまま、警戒を緩めない。
「で、お前……何者だ? っていうか、レガルドが寄越した刺客だろ? 単独で来たってことは、腕利きのはずだ」
男は、表情を崩さず答える。
「……シェイド。ただの偵察部隊だ」
「ふーん、すんなり答えるんだな」
「負けたからな。俺はボスには忠誠を誓ってるが、往生際悪く黙る性格でもないのでな」
「なるほど。じゃあ、裏口の入り方、教えてもらえる?」
「それは無理だ。ファミリーの危機に関わる情報は、口外できない」
アラタは肩をすくめて、「あっそ。全然いいけど」と呟いた。
そして、シェイドの腕に手を触れ——。
「ギルティ、《追体験》」
瞬間、アラタの視界に映る——
ルナーレ大聖堂の祭壇、そしてその地下へと続く隠された入口。
「バルタ。さっきの大聖堂、祭壇の下に入り口がある。行こう」
「なるほどな……って、こいつはどうする? 始末するか?」
バルタが銃口を向けたまま訊ねる。
「そうだな、能力も厄介だし、ここで始末するのが得策だろうが……一旦ボスの判断を仰ごう」
バルタは端末を取り出し、シュティーに連絡を取る。
だが——。
「おい、アラタ!」
声が震えていた。「ボスが……やられた!!」
罪名:「印
呪鎖使用時限定で併用可能な特殊な罪。
最大3カ所まで任意の場所に「印」を付与できる。
付与した「印」から、呪鎖を遠隔で出現・展開させることができる。
呪鎖の射出方向、速度、角度などはアラタの意思である程度コントロール可能。
罰は呪鎖と同じだよー




