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クロード家の云々  作者: カキちゃん
第一章 
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第19話「静かなる後ろ盾」


廃墟に、静寂が戻っていた。

キリアン・シャードとの死闘を終えたシュティーは、倒れた彼を横目に立ち尽くす。


剣を鞘に戻し、呼吸を整えるシュティーの影が、静かにゆらいだ。

空気の緊張は消えていない。彼女の戦いは、まだ終わっていなかった。


「ひとまず……CIDからの依頼は達成ってことでいいのかな?」


そんな独り言を呟いた直後──。


「お嬢っ!!」


怒鳴り声とともに、扉が勢いよく開いた。

ディノ・ファルクが、土煙を上げながら駆け込んできた。いつになく顔が青ざめている。


「CIDの機動部隊が来やがった! ドンパチやりすぎたぞ! 誰かに通報された!」


「そっか、やりすぎたかー。まぁ結構派手にやったもんね」


シュティーは相変わらずの調子で茶化す。だが、ディノの焦燥感は消えない。


「なに呑気にしてやがる! 相手はCIDだぞ!? お前、さっきあのキリアンってやつを……!」


ドドド……ドドド……!


床下から振動が伝わる。廃墟の外には、CIDの黒い車両がずらりと並び、その機動部隊が次々と突入してきていた。


──だが、彼らは真っ直ぐにシュティー達へ銃を向けることはなかった。


入ってきた一人の隊員が、即座に報告を入れる。


「目標確認、キリアン・シャードを発見。意識不明の状態、拘束に移行します」


淡々とした声。シュティーも、ディノも、一瞬ポカンとする。


「……あれ?」


思わず口に出たシュティーの疑問。


すると、隊員の一人が彼女に向かって歩み寄り、敬礼に近い仕草で言った。


「クロード家の方ですね。ここは我々に任せてください」


そのマスク越しの声に、どこか柔らかな、配慮を含んだ響きがあった。

驚くディノをよそに、シュティーは何かに気づき、頷いた。


「──そうか、CIDからの依頼だったんだもんね。なら、ボクらがここにいても不自然じゃない」


とはいえ、疑問は残った。


(でも、通報って一般人のはずだよね? それでどうして──)


CIDの部隊がキリアンを拘束していく中、彼の体が微かに動いた。

倒れていたはずのキリアンが、ゆっくりと目を開けたのだ。


血を流し、傷だらけの体で彼は辺りを見渡し、シュティーを見つけて言った。


「……おい、ガキ……名前は?」


「え? ボク? シュティー。」


「そうか……。覚えた」


キリアンの目には、先ほどまでの殺気はもうなかった。


「──また会うことがあれば、本気で殺り合おう。次は……俺も少し、変わってるかもな」


その瞳は、なぜか微かに笑っていた。

彼の中で何かが変わり始めているのを、シュティーは確かに感じ取った。


やがてキリアンは再び意識を失い、CIDの車に運ばれていった。



CIDの部隊の一人が、ディノに近づき、簡潔に状況を説明した。


「キリアン一派は、以前より半グレ集団として監視対象でした。特に“廃棄路地での殺人事件”以降、当局は本格的に動く必要があった」


「それでボクらに協力を依頼した……?」


シュティーの疑問に、隊員は頷く。


「はい。信頼筋であるセシル家を通じ、クロード家に依頼を回しました。正式に動かすには時間がかかる。ですが、あなた方なら迅速に対応できると」


ディノが小さく笑った。


「つまり、都合のいい駒ってことか」


「……駒という言葉を使うなら、最も信頼された駒です」


その言葉に、ディノは眉をひそめたが、シュティーはあっさりと笑った。


「そっか、まぁいいや。じゃ、帰ろっか」



帰ろうと歩き出したとき、背後から一人のCID職員が駆けてきた。


「シュティー様、こちらを」


差し出されたのは、一台の携帯電話。誰かと通話が繋がっているようだった。

受け取って、耳に当てる。


「もしもし?」


『もしもし、調査への協力、感謝する──シュティー・クロード』


一言でわかる。

その声には、年齢、威厳、立場、すべてが滲んでいた。


「……CIDの局長さん?」


『……どうしてそう思う?』


「通報を受けてすぐ動いたのに、ボクらの情報が現場部隊に届いてた。住民通報なら、そんなに早く回らない。

指示できるのは、CIDの中でもかなり上の立場──その推理で合ってる?」


『……フッ。さすがだな』


相手の声が、わずかに笑う。


『君にはいくつか聞きたいことがあったが……まあ、今回はそれより礼を言おう』


「でも、なんでボクらに依頼したの? 一応“マフィア”なんだけど」


『名ばかりのな。君たちは、少なくともこの街では“希望”の一端を担っている』


シュティーは眉をひそめた。


「……その言い方、気になるな。何か企んでるでしょ?」


『……詳しくは言えない。ただ、一つだけ伝えておこう』


一拍、間が空いた。


『好きにやって構わない。今後、大抵のことには目をつぶる。だが──“ただのマフィア”にはなるな』


その言葉に、シュティーは口元を吊り上げた。


「ありがと、そう言ってくれるなら、ちょっと頑張ってみようかな」


『それと……“エルメル”から連絡がある。聞くかどうかは君次第だが、頭の片隅にでも置いておいてくれ』


「エルメル……了解。じゃあね、局長さん」


通信が切れる。

シュティーはしばらく携帯を見つめていたが、すぐにそれをCID職員に返した。


「ディノ、帰ろ」


「……おう」



──数時間後、CID本部。局長室。


分厚い扉の向こう、ひときわ重厚な椅子に、一人の男が座っている。

手元の机には、一枚の写真。まだ幼い少女と、男の姿。

男はその写真を指先でなぞりながら、呟いた。


「……お前の娘は、立派に育ったぞ」


部屋には誰もいない。返事もない。

ただ、静かに風がカーテンを揺らすだけだった。


とりあえず第一章完!ってことで、次の章は本気出します。

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