第18話「刃の向かう先は」
廃墟の最奥。崩れかけた天井からわずかに差し込む光の中で、二人の影が向き合っていた。
キィン、と金属が擦れるような音。
その直後、空気を裂くように無数の刃がキリアンの身体から飛び出し、シュティーを貫かんと襲う。
しかし──そのすべてを、シュティーは紙一重で躱し、あるいは銀の刃で受け流した。
「へぇ、それが君の“刃”の能力……ってことはさ、廃棄路地での件。犯人は、やっぱり君で確定ってことでいいかな?」
キリアンの表情は変わらない。ただ、静かに──まるで当然の義務のように、口を開いた。
「……ああ、あの件か。確かに俺だ。正直、アジトの近くでやるのはリスクだったが──あいつは俺たちの金を持ち逃げしようとした。裏切り者は、生きている価値がない」
「ふーん。それで“リーダー様”がわざわざ自ら手を下したんだ?」
「上に立つ者には、それなりの“矜持”ってものがある」
その言葉と同時に、再び刃が放たれた。数は十、二十ではきかない。壁から、床から、まるで空間ごと刃に変わったような圧力。
シュティーは後方へ跳びながら、冷静に観察する。
(刃の展開範囲は……約5メートルってとこかな。一本一本の強度は高いけど、手応えは均一。となると……素材は恐らく、彼自身の鉄分……)
「君、バルタと似てるね。構造は違うけど」
キリアンの目が細くなる。
「ふん、本当に分析好きなガキだな」
「癖みたいなもんだからね」
シュティーは攻撃を捌きながら、じわじわと距離を詰めていく。だが、近づくたびに刃の数は増え、その密度は高まる。
キリアンは一瞬、ニヤリと笑った。
「──お前の瘴気、“熱”に弱いらしいな。コンプレスが言ってたぜ」
「うん、そうだね。でも……君はボク相手に“使う必要はない”と思ってる。違う?」
キリアンの瞳がわずかに動いた。
「リーダーだから、自分の力でケジメをつける。そういう矜持があるんでしょ? だったら仲間に任せず、自分で倒す。……でもね、それって」
シュティーは足を止め、笑う。
「──仲間を信用してないってことでもあるよね」
キリアンの顔が、露骨に歪んだ。
「……少し、喋りすぎたようだな」
怒りが爆発するように、刃が嵐となって襲いかかる。だが、シュティーは怯まない。むしろ、その勢いに乗るように、一歩前へ踏み込む。
「君の能力──殺傷性、持続性、どれも高水準。だけど、欠点がある」
その瞬間、一本の刃を真っ向から斬り落とした。
キィンッ!
「折ったら元には戻らない……そうでしょ? 君の刃、折れたら身体にも戻せない。毎回“新たに作り直してる”──正解?」
キリアンの攻撃が止まらない。だが、シュティーも止まらず、次々と刃を斬り落としていく。
(一本、二本……刃を削げば削ぐほど、再生速度と硬度が落ちてる。きっと鉄分を補う手段も、限られてるんだ)
最後の一本を打ち払ったと同時に、鋭い踏み込みから──
「──終わりだよ」
シュティーの刃が、キリアンの胸元を斬りつけた。
キリアンは膝をつき、がくりと前のめりに倒れる。
「なぜだ……なぜ能力を使わなかった……!」
「うーん、そうだねぇ」
シュティーは片目を細め、悪戯っぽく笑う。
「君くらいなら、能力なしでも勝てると思ったから──かな?」
その笑みは、どこか悪魔のように残酷で、そして恐ろしく冷静だった。
キリアンの意識が薄れていく。
その暗闇の中で──彼は、遠い記憶に呑まれていった。
血が流れていた。
それは敵のものでも、自分のものでもなかった。
「──キリアン、お前がやったってことにされてる。逃げろ」
仲間だった男は、まるで荷物でも捨てるように言った。キリアンではなく自分が助かったことに、心から安堵した顔をしていた。
十四歳のキリアンには──現実は、あまりにも重すぎた。
正義のために力を使いたかった。
誰かを守れる力がほしかった。
でも、信じた“仲間”は、その力を恐れ、切り捨てた。
それから、彼は“信じる”ことをやめた。
路地裏で倒れた少年に声をかけたのは、赤毛の青年だった。
「……その血、売れるか?」
「は?」
「冗談。でもさ、弾が要るんだ、撃つためにはな。俺は、血から弾を作れる」
そう言って笑った青年──クロム。
彼は刃を見て、面白いと言った。価値があると言った。
キリアンは、差し出された手を取った。
ただし、それは友情ではない。
「俺たちは“共犯”だ。それ以上でも以下でもない」
「上等」
その日、“刃”と“魔弾”は契約を交わした。
心が壊れた二人が、それでも前に進むための。
キリアン(……信じねぇって決めてた。信じりゃ裏切られる。……でも……もしあの時……信じていれば──)
遠のく意識の中、誰かが言った。
「──仲間は大事にした方がいいよ、お兄さん」
──それが、シュティーの言葉だったのか。
──それとも、かつて信じた誰かの幻影だったのか。
その答えは、キリアンの心の奥、静かに閉じられたままだった。
前話より良い感じにかけた!正直第一章はほぼノリで書いてるからぐちゃってる




