第16話「向けられた刃」Part2
廃墟の外、アラタは荒々しい敵たちを前にして苦々しく呟いた。
「お嬢も本当、使い勝手荒いなー。こんな非能力者の雑魚ども相手しても勝ち犬になれるわけねぇ」
向かってくる男たちを素早く殴り飛ばすアラタの顔には、疲労と苛立ちが混じっている。
「せめて能力者と相手できたらな……てかコイツら、鍛えてるだけあって結構タフだ。俺的には中に入って加勢したいんだよな……速攻で決めるか」
そう言うと、アラタは深呼吸して能力の準備を始めた。
「ギルティ……狂狼」
彼の身体の奥底から、激しい熱量と力が湧き上がっていく。
筋肉は一層引き締まり、動きが一瞬で鋭くなるのを自覚したアラタは、襲いかかる男たち5人、6人をものの数秒でなぎ倒していった。
「これならお嬢たちに間に合うな!」
時間は僅かに3分が経過し、廃墟の外に立っているのはアラタただ一人だった。
彼は軽く伸びをして廃墟の中へ歩みを進めた。
しかし、廃墟の入口付近で彼の行く手を阻むように、2人の男が姿を現した。
一人は気味の悪いニタニタ笑いを浮かべ、もう一人は軽やかな金髪の男だった。
「ほぉ〜、まさか数分で全員やられるとはな。クロムが追い詰めたって聞いてたから、正直甘く見てたよ」
金髪の男は皮肉たっぷりに言い放つ。
「ケケッ、俺としては、あのガキと殺りたいんだがなぁ」
ニタニタ男が含み笑いを浮かべながら応じる。
アラタは鋭い目で二人を見返した。
「…一人はお嬢が言ってたコンプレスって奴だな。もう一人は……知らん!お前は誰だ?」
「ははっ、俺は陰薄いからねぇ〜。能力も戦闘にはほぼ活かせないし。あ、俺の名前はゼン」
金髪の男は涼しげに笑いながら答えた。
ゼンは軽薄そうに続ける。
「お嬢って、さっきの女の子のこと?あの子いいよねぇ。顔可愛いし強そうだし、一回デートさせてくれないかなー?」
「おい!ゼン!あいつは俺様の獲物だぞ!クソッ、俺様の能力が生物も圧縮できたら、あのガキを圧縮して虐めるのになぁ」
コンプレスが悔しげに言う。
アラタは短く吐息を漏らしながら立ち上がった。
「さっさと殺ろうぜ?こっちも時間がないんだ」
(あと2分ほどで狂狼の効果が終わり、ペナルティがくる……)
心の中で焦りを感じていた。
「そんなに急かすなよ。こっちはな、中に行かれたくないんだ」
ゼンは冷静に答えた。
「そっか、じゃあこっちから行かせてもらう」
アラタは決意の表情で、ゼンに向かって一気に距離を詰めた。
「バカだなぁ……」
ゼンは嘲笑い、アラタめがけて巻物を投げる。
巻物が地面で爆発し、激しい閃光と爆風が走った。
「……巻物、あれってお嬢とバルタが言ってた能力か?……ただの瞬間移動じゃないのか?」
アラタは地面の爆発を見ながらつぶやく。
「そうさ。今の巻物には“爆発する”って事象を書き込んでおいた」
ゼンは能力の説明を始めた。
「俺の能力は“巻物”。巻物に事象を書き込むことで、任意のタイミングか、巻物を開いたタイミングで書かれた事象を実際に起こせるんだ」
「書き込むのは能力で行うから、ペンとかは不要さ」
ゼンは楽しそうに言った。
「ただしね、細かく書く必要がある。たとえば今の“爆発する”って書き込みは、巻物自体に爆発の現象が起きる。だから“コンプレスが爆発する”なら、コンプレス本人が爆発することになるんだ」
「ケケッ!なんで俺様なんだよ!」
コンプレスが抗議しながら怒鳴る。
「だって彼の名前知らないからさ」
ゼンは涼しい顔だ。
「なるほどな……便利そうだが、俺の能力には敵わねぇ!」
アラタはすぐに再度ゼンに攻撃を仕掛けた。
(クソ!こいつの話聞いてたら、狂狼の効果時間あと1分もねぇ!)
焦りを押し殺しながら戦いに集中する。
「ケケッ、俺様を忘れてもらっては困るなぁ!」
コンプレスはアラタに向けて投げ放つ。
「開けゴマ!」
コンプレスが叫ぶと、圧縮されていた鉄骨が瞬時に元のサイズに爆発的に戻り、雨のように降り注ぐ。
アラタは身軽にかわしながら、頭の中で整理していた。
(お嬢が言ってた通りだな……コンプレスの能力は派手だが単調な動きしかできねぇ。問題はゼン、こいつの巻物の内容によっては、俺を瞬時に殺すこともできるだろう。ただ名前を書き込まれなければ発動しない!今なら……)
「今なら倒せるか、そうだね、名前を“知らなければね”」
ゼンがニヤリと笑い、巻物を取り出した。
「これには、“ディノ・ファルクが死ぬ”という事象が書かれてる。今すぐ止まれば使わないよ?」
ゼンは挑発するように告げた。
アラタはその言葉で止まりかけた瞬間、狂狼の効果が切れ、身体の感覚が麻痺していく。
「ハハッ、本当に止まるんだな、でも…使っちゃうんだな、これが」
ゼンは悪戯っぽく巻物を投げつけた。
巻物が光を放ち、効果が発動する。
アラタは顔を青ざめたが、巻物の効果は花が咲く効果に変わっただけだった。
「は?」
アラタは目を丸くする。
「ハハッ!面白いだろ?実は巻物には“花になる”って事象を書いておいたのさ!さらに、“ディノ・ファルク本人がいなければ、その人が死ぬという事象は発動しない”からな!つまり今のはフェイク!ビックリしたか?ハハハッ!」
ゼンは大笑いした。
アラタは怒りに燃え、次の瞬間つぶやいた。
「ギルティ……擬態」
その体は背景に溶け込み、姿が見えなくなった。
「おやおや?クロムが言ってた通り、逃げるのが好きみたいだな。せっかく良いところだったのに、残念だな……おっと」
ゼンは何者かに押されたようにバランスを崩した。
アラタの姿は見えないが、次の瞬間、彼はつぶやく。
「ギルティ……変幻」
罪「変幻」1時間の間、自身の姿を触れた相手の姿に変える。声、匂い、体格すべてが完全に一致する。
罰 効果終了後、10分間情緒不安定状態となる。
コンプレスがアラタに声をかける。
「おいおい、大丈夫かよ?」
ゼンが不思議そうに周囲を見渡す。
「あぁ……なんか誰かに押されたような……ん?おいコンプレス、お前の隣のやつ」
コンプレスが左を向くと、そこにはもう一人のゼンが立っていた。
「え?ゼンが二人?え?」
コンプレスは目を見開いた。
ゼン?が声を荒げる。
「おい!コンプレス!そっちが偽物だ!」
本物のゼンも負けじと反論する。
「何言ってやがる!俺が本物に決まってるだろ!なあ、コンプレス!俺は最初からお前の右に居たよな?」
「そ、そうか?右にいたような…左にいたような…あれ?」
コンプレスは混乱してうろたえる。
ゼン?が身を乗り出して言う。
「おい、コンプレス!こっちを見ろ!俺の目を見ろ!これが嘘をついてる目か?」
「そうだな…じゃあ右にいたお前が偽物だな!俺様を騙しやがって!」
コンプレスは右のゼンに言葉をぶつける。
その時、偽物のゼンが声を低くして言った。
「ギルティ……模倣」
罪「模倣」他者に触れることで、3分間その相手の能力をコピーできる。ただしコピー能力はオリジナルより劣化する。能力コピー中は他の罪の併用が制限される。
罰効果終了後、30分間ランダムな罪が使用不可になる。使用頻度が高い罪から優先的にペナルティが課される。
アラタは「変幻」を解除し、本当の姿を現した。
「おい!後ろ!コンプレス!」
ゼンが慌てて叫ぶ。
「うるせぇ!偽物!俺様が倒してやる!」
コンプレスが怒りに任せて叫びながら突進するが、突然、体が宙に浮き上がった。
「お前の能力、借りるぜ!“開けゴマ!”」
アラタが模倣した圧縮能力を使い、鉄骨を圧縮、解除の連携で元の大きさに爆発的に戻した。戻した鉄骨はコンプレスに直撃した。
「それ俺のセリフ!」
コンプレスが悔しそうに叫びながら吹っ飛ぶ。
「お前の能力、結構いいじゃん。罪に加えようかな」
アラタは冷静に返す。
「なんだお前の能力!」
ゼンは後退しながら、隙を伺う。
「お前みたいにおしゃべりじゃないが、俺の能力は「濡れ衣」。罪を付与する事で、一定時間の間、身体能力のバフや追加の能力が得られる、併用可能数は3。今は模倣を使ったから、あと一つしか使えないがな!」
アラタは呟く。
「ギルティ……呪鎖」
アラタの掌から見えない鎖が飛び出し、ゼンを引き寄せた。
アラタは右ストレートをゼンの顔面に叩き込む。
「ぐぉぉ!」
ゼンは吹っ飛ぶが、鎖で引き戻されてしまう。
「開けゴマ!」
アラタは再び圧縮した鉄骨を解除し、ゼンに直撃させた。
ゼンは完全に意識を失い、地面に倒れ伏した。
「ふぅ……スッキリした。ペナルティ来るから寝て待ってるか。あの三人なら大丈夫だろうしな」
アラタは地面に寝転び、ゆっくりと息を整えた。
補足 アラタの罪によるペナルティは、併用してた場合全ての罪の効果が終了した時、全て罪のペナルティが一気に課せられます。
これ小説に書くとあれだから後書きにね。




