第15話「向けられた刃」Part1
一週間後。
あの日の約束通り、シュティーは再びローレン旧区画の廃墟を訪れていた。
隣にはアラタ。表情は渋い。
「お嬢?」
「ん?」
「今日は、挨拶に来ただけっすよね?」
「そうだよ」
「だったら……なんでこんな人相悪い奴しかいないんすか」
アラタが指さす先には、ガラの悪そうな男たちが二十人以上も集まっていた。鋭い目、剃り込み、物騒な武器、煙草の臭い。まさしく“場末のならず者”が全員集合したような光景。
「人相だったらアラタも結構悪いよ?」
「いやいや、俺のはこう…優しい悪党フェイスってやつで……」
そんなアラタの反論をスルーし、シュティーは男たちの中央に進み出て、明るく声をかけた。
「こんにちはー!」
不思議そうにこちらを見る男たち。やがてそのうちの一人が、ずかずかと前に出てくる。
「なんだ、ガキ?」
「約束してたんだけど、キリアン出してくれる? もしくはサングラスかけた銃使いの人でもいいけど」
「キリアンさんに用ねぇ……それよりお前、いくつだ? 結構かわいい顔してんな?」
「そう? ありがと」
「ガキに興味はねぇが……俺が楽しませて──」
男が下卑た笑みを浮かべながら言葉を吐きかけた、次の瞬間。
ゴッ!
重い音とともに男が吹き飛んだ。
その拳を放ったのは、アラタだった。
「……あ」
「……あ」
沈黙。空気が凍る。
男たちは一瞬で臨戦態勢を取る。周囲の視線がアラタとシュティーに集中し、空間に緊張が走った。
「ねぇ、アラタ。お願いがあるんだけど」
「なんですか? お嬢」
「ここにいる人達、アラタ“ひとり”で相手してくれる?」
「……え?」
「前負けたし、今日は勝ち犬になるチャンスだよ? 頑張って」
事もなげに、にっこり笑って言い放つシュティー。
「いや……まぁ……っすね……わかりました……」
アラタは観念したように前へと進み出た。棒読み気味に叫ぶ。
「よーし、お前ら〜、かかってこーい」
その言葉に対し男たちが一斉に唸りを上げる。
だが、その瞬間。
「じゃあボクはキリアンに会ってくるから、よろしく〜」
シュティーはひらりと背を向け、廃墟の奥へと駆け出した。
「行かせるかよ!」
一人の男がシュティーに襲いかかるが──
「ごめんね、ボク急いでるんだ」
ヒラリと躱し、シュティーは男たちの隙間をすり抜けていく。軽やかな動きで飛び越え、男達を踏み台にして進んでいく。
「ディノー! バルター! 先、行ってるからねー!」
「ふっ、相変わらずお嬢は無茶するな」
「そうですね、兄貴」
ディノとバルタも続いて廃墟に突入。向かってくる男たちを鋭い動きでいなしながら、シュティーの後を追う。
こうして──クロード家とキリアンたちの戦いの幕が上がった。
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廃墟内部。
暗がりの廊下に足を踏み入れた瞬間、銃声が鳴る。乾いた破裂音とともに、何かがシュティーの横を通過していく。
──だが避ける必要はなかった。弾丸は最初から、彼女の横をかすめていた。
「今のは威嚇ってとこかな? 狙えばいいのに」
視線の先、暗がりから姿を現したのはサングラスの男──クロム。
「また会ったな、変なガキ。キリアンに用があるんだろ? キリアンなら、この先にいる」
「教えてくれるんだ。ありがと。でも、ただでは通らせてくれない感じ?」
「そうだな。通りたければ……俺を倒していけ、ってやつだ」
「ふーん。でもごめんね、ボクが興味あるのはキリアンだけなんだ」
言いながら、シュティーは一気にクロムの方へと走り出す。
「バカが」
クロムは即座に反応し、シュティーに向けて発砲──
「バルタ、お願い!」
「わかった!」
バルタが立ちはだかり、鉄に変化させた身体が弾丸を受け止める。甲高い金属音が響く。
「身体変化系の能力か……だがな」
クロムはすぐさま天井に向けて二度目の発砲。弾丸は跳弾し、シュティーの背後を狙う軌道を描いた。
カキン!
跳弾が届くより早く、鋭い音が響いた。ディノの刀が、空を裂くようにして弾丸を両断した。
「背中は任せて突っ込みな!」
「ありがとー!」
クロムは眉をひそめながらも、再度発砲。三発目の銃弾は、正確にバルタの胸元を捉える──
ガンッ……だが次の瞬間、バルタの顔が苦痛に歪む。
「クッ……」
「貫通しただと……?」
鉄の肉体をも貫通する一発。だが、バルタは止まらない。
バルタが突進し、クロムを壁際へと吹き飛ばす。クロムの身体がコンクリートの壁を割り、奥の部屋へと消える。
その瞬間、シュティーはバルタの肩を蹴って跳躍し、さらに奥へと駆けていった。
そして。
彼女が辿り着いた部屋の奥。
薄暗い光の中、古びたソファに腰かける長髪の男がいた。
「はじめまして。君がキリアン、かな?」
「……お前がクロムの言ってたガキか」
「さっきの人のことだよね? クロムって言うんだ」
「てっきりボスが来ると思ってたが……ハズレたな」
「ボス?」
「お前たちの“ボス”、ディノ・ファルクのことだ」
「あー、なるほど。そっか、知らないもんね」
シュティーは納得したように軽く頷く。
「何がだ?」
「ううん、こっちの話。……まあ、ディノも強いけど、ボクも結構強いからさ。相手になってくれると嬉しいなー?」
「……ふん、ガキが。俺は相手が誰だろうと容赦しない。刺し殺すだけだ」
「お、それは楽しみ」
そう言って笑うシュティーの目は、冗談めかしているのに、真剣だった。
この部屋に満ちる静かな殺意。
鋭く、鈍く、二人の間に“刃”が交錯する音が、まだ聞こえてはいない。
思ったこと言いまーす。適当に書きすぎてローレン旧区画の大きさ訳分かんなくなってる()




