第13話「放たれる刃」Part2
ここはローレン旧区画にある廃墟。
元は何かの経営施設だったらしいが、今では半グレ集団の基地として使われている。
「帰った」
サングラスを掛けた赤髪の男が、重そうな鉄扉を押し開けながら中へ入る。
「始末したのか?」
ソファにだらしなく腰を掛け、憂鬱そうな表情をした黒髪長髪の男が声をかける。
「いや、目の前で消えた」
「消えた?……ゼンの“巻物”みたいな瞬間移動か?」
「違う。移動じゃない。同化、擬態系だ。背景に溶け込んで消えるような、そんな能力だった。あともう一つ、見えない拘束のような何かを使ってきた。複数性質のある特殊な能力者だろうな」
「……それでもお前が標的を逃すとはな。クロム」
「すまない。身体能力が異常なやつだった。数十メートルの距離を、2〜3秒で詰めてくる。反射神経も、常人の域じゃなかった」
「……クロムがそこまで評価するなんて、相当だな」
「ただ、あいつでも……お前の足元には及ばないさ、キリアン」
「どうかな?」
少しだけ口元をゆるめ、キリアンは退屈そうに髪をかき上げた。
「そういえば、コンプレスの奴も言ってたな。“探ってるガキ”を見つけたって」
「ケケッ、ああ見つけたとも。あの日の倉庫で俺をコケにした、ガキだ。俺の“圧縮”を回避して、足に妙なもんを残しやがった。穢されたんだよ、俺の足がよォ!」
「……穢された?」
「ああ。“触れたモノを穢す”とかいう、厄介な能力らしい。でも、ラッキーだったぜ?たまたま穢れたとこ治してるとき気づいたんだが……どうやら“熱”に弱ぇ!」
「つまり、熱処理すれば無効化できる?」
「そういうことだ!運がいいぜ、ほんとによォ……」
キリアンは小さくため息をつく。
「そのガキと、クロムが逃した男……繋がってると思うか?」
「関係あるかもしれないし、ないかもしれないな」
「……どちらにしろ。俺たちの周りをウロつかれるのは、面白くない」
キリアンの声は、廃墟の薄暗い空間に吸い込まれるように消えていった。
「アラタを襲った敵。CIDからの依頼。そして宝石店での瞬間移動」
シュティーは拠点のソファで、寝転がるようにして考える。
「別々の事件とは思えない……。むしろ全部、繋がってる可能性の方が高いよね」
廃墟路地での殺人事件。
アラタが戦った狙撃手。弾丸を操る能力を持ち、挙動や戦術から見ても只者じゃない。
そして宝石店で起きた強盗事件での瞬間移動。
全てローレン旧区画で起きている。
だが、情報が足りない。何より“誰が何の能力を持っているのか”が分からなければ、動くにも動けない。
「せめて、能力の詳細さえ分かればなー……」
能力者はCIDへの能力の登録が義務づけられている。
未登録で能力を使用すれば、それは違法。だが登録されていても、CIDのデータは非公開情報。
民間のマフィア組織に、都合よく開示されるような甘いものではない。
「CIDから情報引っ張れるなら話は早いんだけどねー……」
と、その時だった。
ノック音がして、扉が開く。
「こんにちは、シュティー。その様子じゃ“なーんも分かんない!”って顔してるわね」
「そうだけど?」
「やっぱり。全く、仕方ないなぁ。ほいっ」
ヴァリーナが白い封筒を差し出す。
「なにこれ」
「セシル家でちょっと調べた資料よ。今回の事件、私もちょっと気になってね。お父様にお願いして、関係ありそうな能力者の情報をまとめてもらったの。数は少ないけど、何かのヒントにはなるかも」
「……どうやって?」
「ふふん、セシル家は貴族よ?CIDにだって多少のコネくらいはあるの。特に、昔から付き合いのある役人さんも多いし」
「……権力の暴力」
「なにか言った?」
「なんでもない。ありがと」
シュティーは封筒を受け取り、ソファに座り直す。
中から数枚の紙を取り出すと、手早く目を通していく。
目を滑らせていたそのとき、ある名前が目に留まる。
「……キリアン・シャード?」
シュティーの手が止まる。
「この人…CIDで“能力登録はされてるけど、動向が掴めてない”って扱いになってるって書いてある。
能力は“刃”。詳細不明。所在不明」
封筒の中身をじっと見つめながら、シュティーは思考を巡らせる。
「まずはこの“キリアン”を調べてみよう。アラタを狙った奴とも、無関係じゃなさそうだしね」
目の奥で静かに火が灯る。
ソファに深く腰を下ろしたまま、シュティーは新たな標的の名を、口の中で繰り返していた。
やっと物語進展するよ!




