第12話「放たれる刃」Part1
ローレン旧区画、廃れかけた宝石店。扉を軽く開け、アラタは店内に入る。
「こんにちは〜」
中にいたスタッフが笑顔で応対する。
「いらっしゃいませ。今日はどのような品を──」
「いや、買い物ではないんですけどね」
アラタは胸元から小さなメモ帳を取り出しつつ、穏やかに言葉を続けた。
「先日、こちらで起きた強盗事件についてお話を伺えればと」
「えっ……」
スタッフの顔がわずかにこわばる。
「ちょっとした事情で調べてましてね」
「もしかして……CIDの方ですか?」
アラタは笑って、肩をすくめる。
「まー、そうと言えばそうかもですね。はい」
CIDから依頼されたことは事実。とはいえ自分はCIDの職員ではない。嘘のような本当のような、そんな曖昧な立場が彼には似合っていた。
「強盗の中に、何か変わった人物はいませんでしたか?」
スタッフは少しだけ困ったように眉を寄せた。
「そうですね……以前来ていただいたCIDの職員さんにも同じように話したのですが、強盗に来た者たちは皆、覆面を被っておりまして。外見的な特徴は分かりません。それと……“能力”で消えたように見えました」
ここまではアラタの事前調査と同じだ。新情報はないかと彼は話を続ける。
「他に、何か少しでも変わった点があったら教えてください。ほんっと、なんでもいいんで」
スタッフは顎に手を当てて、しばらく沈黙する。アラタはその沈黙を急かさず、静かに待った。
「……そういえば……」
ようやく口を開いたスタッフが言った。
「強盗が入ってきた瞬間、店の全ての窓が一斉に割れたんです」
「一斉に?」
「はい。爆発音と、銃声のような音がして……あっという間にガラスが砕け散って。その音に驚いているうちに、強盗が……」
「つまり、窓を割ることで注意を引き、その瞬間に突入……というわけですか」
「ええ。それがとにかく衝撃で……当店としても、今だにショックです」
「……ありがとうございました」
アラタは丁寧に礼を述べ、自身の連絡先を渡した。
「また何か思い出したら、こちらにご連絡を」
店を出て、アラタは通りを少し歩く。
「さて……次は、その日の客から情報を聞くとして……その前に…」
アラタは立ち止まり、低く呟いた。
「ギルティ──《狂狼》」
瞬間、身体の内部から湧き上がるような熱と力がアラタを満たす。
能力「濡れ衣自身に"罪"を付与することで一定時間のバフや追加能力を得られる、能力効果終了後"罪"に応じた"罰"(ペナルティ)が与えられる」
罪《狂狼》
効果:発動中5分間、身体能力が50%上昇する
罰:効果終了後、2分間にわたる全身の感覚麻痺
身体が軽くなる。筋肉がしなやかに、反応速度が鋭くなる。
その直後。
「──ッ!」
銃声。鋭い金属音が響くと同時に、弾丸がアラタの頬を掠めた。
「……!」
即座に反応し、アラタは狙撃手の方へ向かう。
再び銃声。二発目の弾もアラタに向かってくる。しかし、強化された身体はそれをも避ける。
「治安が悪いとはいえ、昼間から撃ってくるか普通!?」
怒鳴りながら、アラタは銃声の方向を見る。狙撃手は物陰に隠れており、姿が見えない。
(あの角……裏手は行き止まりだ。逃げ道は…ない!)
アラタは駆け出す。スピードを活かして建物の角を曲がり、狙撃手を追い詰めた──はずだった。
「……居ない!?」
角を曲がった先、狙撃手の姿はない。建物の構造から見て、隠れる場所などないはず。
その瞬間、背後から「パリンッ」とガラスの割れる音。
振り返ると、後方の建物の窓──そこから一発の弾丸が飛んできていた。
(銃声が、……聞こえなかった? まさか、弾丸を“操作”したのか!?)
アラタは即座に回避。しかし──視界の端、建物の内部に映ったのは、サングラスを掛けた狙撃手の姿。
「……!」
引き金が引かれる。
(間に合わねぇ──!)
銃声。次の瞬間、アラタの肩を貫いた銃弾が、血を撒き散らす。
「ぐっ……!」
呻きながらも、アラタはすぐさま叫ぶ。
「ギルティ──《呪鎖》!」
罪《呪鎖》
効果:自身の掌から鎖を出現させる。鎖はアラタにしか見えず、他者には視認不能。
罰:効果終了後、局所的違和感が発生する。
左手からの鎖が走る。目には見えぬ鎖が、狙撃手の脚へと巻きついた。
「……そこだ!」
アラタが引き寄せると同時に、狙撃手の体がガラスを突き破り、地上に投げ出される。
狙撃手はバランスを崩したが、すぐさま銃口を向け─発砲。
「2回も通じるかよ!!」
だが、その弾丸はアラタの眼前で──炸裂した。
「──ッ!」
爆風と衝撃でアラタの体は吹き飛ばされ、反対側の壁に激突する。
「っ……ぅあ……!」
血を吐きながら、肩を抑える。視界がブレる。骨が軋む。
狙撃手が銃を構えながら、ゆっくりと近づいてくる。
「……まだだ……!」
アラタは喉を震わせて叫ぶ。
「ギルティ──《擬態》!!」
罪《擬態》
効果:3分間、自身の姿を周囲の風景に完全に擬態させる。
罰:効果終了後、5分間の全身脱力と震えを伴う。
一瞬にしてアラタの姿が消える。まるで、空気と同化したような消失。狙撃手は銃を構えたまま数秒間その場に立ち尽くすが──やがて、警戒を残しつつその場を離れていった。
「で、尻尾巻いて逃げてきたと」
シュティーはからかうように言う。
「いや、ボス、本当にギリギリだったんだって!」
アラタは肩を押さえながら反論する。
「ちょっと舐めてたんじゃない?」
「いーや! 相手の能力が強かっただけ!」
「ふーん」
シュティーはそのまま彼をじっと見て、小さく微笑んだ。
「……すんません」
アラタが小さく頭を下げた。
ディノが手際よく包帯を巻きながら言葉を継ぐ。
「弾丸の操作に加えて、炸裂機能……。弾に“性能”を付加する能力ってとこか」
「多分、そうっすね。俺が調査してるのに気づいて、始末しに来たってとこっす」
「狙撃手の顔は?」
「それが……路地で見えにくかったんすけど、サングラスはかけてました」
「……それだけ?」
アラタは口を閉ざす。ほかに特徴は思い出せない。
「まぁ、いいや」
シュティーは口元を吊り上げて言った。
「少なくとも──これは“宣戦布告”だよね」
その言葉には、冷たさよりも、どこか楽しげな熱があった。
「相手が誰だか分からないけど、アラタに手を出したんだ。だったら……懲らしめてあげないとね」
「……ボス……!」
アラタは痛みを忘れて、シュティーの顔をキラキラとした目で見つめた。
「とりあえず、負け犬君は……傷、ちゃんと治そうね?」
「……はい……」
シュティーの言葉に、アラタはしょんぼりと頷いた。
やっとアラタの能力詳細だせた…!




