第11話「繰り返される刃」Part3
「ただいまー」
ローレン旧区画での調査を終えたシュティーは、ようやく拠点へと戻ってきた。玄関を開けた途端に、どこか香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。バルタがキッチンで何かを炒めているらしい。
「お、ボスおかえり」
声をかけてきたのは、ソファで新聞を広げていたアラタだった。靴も脱がずに寝そべるその姿は、まるでその家の主のようだ。
「どこ行ってたんだ?」
「依頼の調査でね。なんと──」
シュティーは少し間を置いてから、やや芝居がかった口調で言った。
「──あのCIDからの依頼」
「……CIDだと?」
アラタが新聞を下ろし、顔を覗かせた。
「CIDからの依頼とは……うちもデカくなったもんだな」
刀の手入れをしていたディノも、ふと顔を上げた。油を布に染み込ませた布巾でゆっくりと鞘を磨いている。
「でも、正直わかんないんだよね~」
シュティーはソファに腰を落としながら、依頼の詳細を語り始める。
「犯人らしき男は割れてるのに、どこにいるのか、どうやって殺害したのかがまったくわからない」
そう言って、封筒から出していた写真の一枚をディノに手渡した。
「ふむ……」
ディノは写真を受け取り、興味深げに眺める。
「……この犯人は、凄腕の剣士らしいな。傷口が全部同じ。深さも角度もまるでテンプレートのように揃ってる。こんなヤツと戦ってみたいもんだ」
「だよね、ボクも最初はそう思ったけど、どうもそれだけじゃないっぽい」
シュティーは腕を組みながら言った。
「何本もの刃で、同時に刺したような跡……能力なのか、複数武器を一瞬で扱えるのか……。でも普通、死に物狂いで暴れる人間をそこまで正確に刺せる?」
「まぁ、そいつがただの“剣の腕前”だけでやってるなら……相当だな」
ディノは口の端をわずかに吊り上げた。どうやら戦闘を想像して楽しんでいるようだ。
「他に分かることもないし、正直お手上げ。CIDが寄越した依頼だけあるね」
そう言うと、シュティーはアラタの方へ視線を向けた。
「アラタ。死体が見つかった“ローレン旧区画の廃棄路地”──その辺で何か事件とか、妙な動きとかなかったか、調べてもらえる?」
「おうよ、任された!」
その時だった。
「おーい、飯できたぞー!」
バルタの声がキッチンから響く。思わず全員の視線がそちらに向いた。
「ナイスタイミング。腹も減ってたとこ」
ディノが立ち上がりながら鞘に刀を戻す。和やかな食卓が広がる中、事件のことは一旦置き去りになった。
──数日後。
調査は進まず、シュティーは焦りこそしないが、苛立ちを隠せない様子だった。そんな中、アラタが待ちかねたように拠点に戻ってくる。
「ボスー、例のローレン旧区画の件、ちょっと面白い情報が出てきたぜ!」
「なにかあった?」
「まぁ元々治安はあの辺悪いんだが……最近はさらに荒れてる。直近だと“強盗事件”があったらしい」
「強盗? ただの泥棒とか?」
「いや、ちゃんとした武装強盗だ。宝石店に4、5人が押し入ったって話だな」
「ふーん、それで?」
「その日、その店には客もスタッフも数人いたんだが──全員が“同じ証言”をしてる」
「どんな?」
アラタは口元をニヤつかせながら言った。
「“目の前で消えた”って」
「……は?」
「いやな、客もスタッフも、犯人たちが“ふっ”と消えたって言うんだよ。まるで、瞬間移動したみたいにな。テレポートみたいな」
シュティーはその言葉を聞いた瞬間、思い出す。
「……バルタ、来て」
「ん? なんだ、ボス?」
キッチンから現れたバルタに、シュティーは言う。
「この話聞いて思い出したんだけど、“あいつ”が関わってるかもしれない」
「“あいつ”?……まさか──」
「うん、コンプレス。前に倉庫で戦った奴」
一瞬で姿を消すようにして移動する。その挙動は、今回の強盗事件の証言とも一致する。
「たしかに……あの時も目の前でふっと消えたな」
「でしょ? 死体の刺し傷とも、合致するような、しないような……」
シュティーは考え込む。
「圧縮解除の瞬間に、複数の刃を展開するってことは可能。でも……コンプレスのあの能力、正確性は低かったはず。死体の傷は、どれも驚くほど綺麗だった」
「ってことは……」
「直接の犯人じゃない。でも“関わってる”可能性は高い」
シュティーは、コップの水を飲み干すと、再びアラタの方へ向き直った。
「アラタ。強盗にあった店、関係者、客……全部、調べられる? とにかく“強盗に能力者が混じってた”かどうかを洗ってほしい」
「おうよ! 了解! 久しぶりにワクワクしてきたな!」
アラタは軽快に敬礼のようなポーズを取り、部屋を後にする。
シュティーは静かに呟く。
「この事件──もっと大きな何かに繋がってるかもしれない」
何かが、動き出している。それは間違いない。
まだまだ調査回は続くよ!ぐだぐだ進めてログ稼ぎしてるのは内緒




