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騎士団庁舎






騎士団庁舎は学院のすぐ近く。

近くまで行くと、門番がいることに気が付いた。ヴァルドさんは騎士団長。

すぐ会わせてもらえるのかな。


「あの……」


「なんだい?坊や」


門番に声を掛ける。

長い武器を持っていて怖かったけど、笑顔で答えてくれた。


「ヴァルド・ノイシュタット騎士団長様はいますか?」


「騎士団長?何の用だい?」


「お、お話ししたいことが……」


「……。いいよ!どうぞ。騎士団長なら今、執務室にいるからな」


「はい。ありがとうございます」


お辞儀をする。

ちょっとぼくのことを見ていた。

でも通してくれた。

何も聞かれなかったけど、いいのかな。


ぼくはここを出られないかもしれない。

すぐに、その場で処刑、されてしまうのかな。


でももう、戻れない。

戻ってくるなって言われたんだ。

謝ってそれで全部ぼくがやったってことで、終わりにしてもらうしかないんだ。

それ以外に方法なんて、分からない。


騎士団庁舎に入り、執務室を探した。

広い廊下だけど、誰もいない……。


執務室を見つけた。

コンコンとノックする。


「入れ」


ドアの向こうから、鋭い声が聞こえた。


恐る恐る扉を開けると、部屋の奥の大きな机の前に――ヴァルド・ノイシュタット騎士団長が座っていた。


黒い服に、黒い髪。

ただ座ってるだけなのに、どきどきして息が詰まる。


「子供がこんなところまで、何の用だ?」


机の上には紙がいっぱいある。

書き物をしている。

よく見るとヴァルドさんの腰には、長くて真っ黒の剣が差してあった。


あれで、切られたら――


「わざわざこんなところまで1人で来て。

何か言いたいことがあるんじゃないか?」


「あ、……」


震えて、声が出ない。

鞄の紐を握りしめる。


ヴァルドさんは書類を書きながら、こちらを気にしているようだった。

深呼吸をする。言わないと。

ぼくが、身代わりにならないと。

もう、帰れない――


「……ご、めんな、さい。

ぼくが、き、騎士団長様の、紋章を、盗みました」


手のひらから紋章を取り出す。

手が震えている。


脳裏に浮かぶ、レオン義兄さん、お義母さんの言葉。

処刑、拷問、もう帰って来なくても構わない――







「ふむ……お前が謝罪しに来るのは、甚だ疑問だが――状況を詳しく聞かせてもらおうか」




_____






突然執務室にやって来た少年。

『アシェ・エクリュ』

門番には子供が来たら通す様に伝えていたが。


しかし随分幼いな。着古した衣服に、何度も修繕された様子のある鞄と靴。そして痩せ細った身体。


そんな彼が紋章を自分が盗んだと、《《偽りの罪を告白》》しに来たようだが、どうしてそんなことになったのか、詳しく聞いてみる必要がある。しかし……


「もう一度聞くが、本当にお前が盗んだのか?」


「……はい。なので、ぼくを、罰して下さい」


先ほどから何度質問を変えても、ぼくを罰して欲しい。としか言わない。ここに来た経緯をオレは知りたいのだが……。


「何故お前が、ここへ来ることになったのかが知りたいんだが……」


「ば、罰して、くれないと。

ぼくにはもう……、帰る場所が、ないんです」


ようやく違う話が出た。

アシェは、ぼろぼろと大粒の涙をこぼし始める。


「ぼくの、い、命で償います、ので。

許して……下さい。ご、ごめんなさい……」


こんな幼い子がそこまで言うなんて。

どうしてそこまでするのか。

全く、何があったのか。


「……泣くな」


執務机から離れて、タオルを渡してやる。

しかし涙を溜めたまま、受け取らない。


「……ったく」


タオルで軽く顔を拭いてやる。


「あ、うぅ……」


アシェはキョロキョロとオレの様子を伺っている。こちらから話さないと、おそらくこれ以上ここに来た理由は聞けないだろうな。


「アシェ。罰して欲しいと言うが――オレは、お前が盗ってないことを知っている。

……身代わりになれとでも言われたのか?」


「……!ち、違います。本当に、ぼくが……」


小さくため息をつく。

必死に自身を罰しろと訴え続ける。

面倒な訳が山ほどありそうだ。


「……アシェ。よく聞いてくれ。

オレは盗んだ奴が、誰だか知っている。

探知魔法で、分かるんだ」


「……え……」


「そして、お前はずっと怯えているが、盗んだ人物が直接謝罪に来れば……そうだな、一発殴って済まそうと思っていた。それだけだ。

だから身代わりに罰されようなどと、考えなくていい」


「……でも、謝りに、来ないです。

だからぼくを……殺して、終わりにして下さい……」


アシェはぼろぼろと泣き続けている。


「……なにを……」


こんな幼い彼に――身代わりを引き受けた彼に、そこまで言わせるなんて……。




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