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魔石




「カッコいい兄ちゃん屋根から飛んでいっちまったな!何者だ!?ともかく結界の中には魔物は入ってこれない。ここで大人しくしてよう」


「……はい」


ぬいぐるみをぎゅっと握りしめる。

ヴァルドさんは今まで、前線で魔物をたくさん討伐してきたって聞いた。

危険で強い魔物相手でも、無事任務をこなしてきたって。


ヴァルドさんが無事でありますように。

ぬいぐるみを抱きしめながら、心の中でそう願った。


「騎士団員が1人で倒してくれてるみたいよ!」


「結界も有難いわ」


遠くで赤い眼が光る魔物がいたけれど、露店全体を包む結界の中なら安全だ。


街の人々も結界の内側にいて、少しずつ落ち着きを取り戻しつつある。

 

「早く第二騎士団が来てくれるといいけれどな。あのカッコいい兄ちゃん1人じゃ、流石に大変だろう」


店主さんがぼくに笑顔で声をかけてくれていた。こくりとうなずく。


「大丈夫か?1人で不安だろう。

俺は魔物と何度か遭遇したことあるけど、第二騎士団の人らに何度も助けてもらった。

だからきっと、大丈夫だよ」


「はい」


店主さんはぼくの肩を優しく叩き、笑いかけてくれた。ちょっとだけ不安が軽くなった気がした。


「坊やとカッコいい兄ちゃん。

どういう関係なんだ?兄弟じゃないよな。

眼の色全然違うし」


店主さんはぼくにたくさん話しかけてくれる。

そのおかげで、あんまり怖くなくなったんだ。


「違うよ。ヴァルドさんはぼくの、憧れの人」


「もしかして、第三騎士団の騎士団長ヴァルド・ノイシュタットか!?なるほど」


ヴァルドさん。ここでも有名な人なんだ。


「こんな大きい強力な結界も張ってくなんて、さすが騎士団長だな!」


ヴァルドさんが褒められて、ぼくのことじゃないのに嬉しくて、にこりと笑った。


「そういえばいつまでもぬいぐるみの坊やじゃあれだな。なんて名前なんだい?」


「あ、アシェです」


「アシェか。いい名前だな。俺はグラッツだ。こんなところでなんだが、よろしくな。アシェ」


「うん」


グラッツさんは今度はにかっと笑った。


「第二騎士団が助けに来てくれたわ!」


街の人が指をさす方向には青い隊服を着た、第ニ騎士団の人達が急いで駆けつけてきてくれた。周りから安堵の声が聞こえる。

第三騎士団は黒い隊服だから、全然違う印象だ。


第二騎士団の眼鏡をかけた人は、住人を見回し大きな声で告げていた。


「皆さん。お怪我はありませんか?

第三騎士団に協力いただき、この辺りの魔物は全て討伐されております!

今のうちに数名ずつ教会へ移動しましょう。

私が先導します。この魔石の範囲に入って下さい」


第二騎士団の人たちが魔石を手に持っている。


魔石に魔力を込めると、その量によって数メートルの範囲を結界で身を守れる。

しかし魔力がなくなると効果がなくなるので、定期的に補給が必要だって以前、ノーマン館長に教えてもらった。


第二騎士団の人達に誘導されて、何組かに分かれて、住人達が教会へと向かい始める。


「アシェくん!教会で会おう!」


グラッツさんが、順番に教会へ向かうぼくに手を振ってくれた。こくりと頷く。


「こ、この魔石の範囲に入れば、安全です。

じ、住人の皆様を優先で、い、行きましょう!ついてきてください」


第二騎士団の人はなんだか緊張しているようだ。でも魔石をしっかりと握っている。

第二騎士団の人に誘導されて、ぼくたちは教会へと向かうことになった。


教会まではまだ距離がある。けれど、魔石の光に守られながら歩けばきっと大丈夫。――そう思いながら、ぼくも列の後ろについて行った。



_____






第二騎士団の人を先頭に、住人達の後ろをぼくはついていく。辺りは静かだ。

みんな、避難したのかな。


「こ、この辺りは、避難区域になっていて、皆教会へと避難しています。い、急ぎましょう」


第二騎士団の人の緊張がこっちにも伝わってくる。よく見たら新米バッジがついている。騎士団の人でも魔物が怖いに決まってる。


ヴァルドさんに、結界の中で待っててと言われていたけど、教会に向かうように誘導されてしまった。ここで待ちますって、声を出すことができなかった。


ごめんなさい。ヴァルドさん。

教会に着いて、魔物がいなくなったらヴァルドさんを探そう。1人でも、きっと大丈夫。

ぼくはぬいぐるみをぎゅっと握った。


「ぼ、僕はユージンといいます。

って僕の名前はどうだっていいですよね。

ともかく、安全に教会まで送り届けますので――」


「あれ、魔物じゃないか!?」


「ひいっ」


一緒に移動する住人の一人が指をさす。

騎士団のユージンさんは、びくりと驚いていた。


遠くに赤い目をした魔物が佇んでいるのが見えた。でもこちらには気付いていない。


「ど、どうしよう。どうしよう。

住人の安全第一、避難優先――こ、こちらの魔石を持っていき、先に逃げて下さい」


ユージンさんは魔物を指さした男の人に魔石を渡す。男の人は困惑している。


「ま、魔物を討伐して来ますので、住人の皆様は教会に先に避難していてください」


「お、おい!」


男の人が止める間もなく、ユージンさんは魔石を託して、そのまま遠くにいる魔物の方へ走っていってしまった。


「ええ……。行ってしまった。

と、ともかく教会へ向かおう!

魔石の魔力量も限られているからな」


みんな困惑しながらも、進むしかないと考え、住人達だけで教会へ向かうことになった。


駆け足で教会へ向かう住人の後ろを、ぼくは置いていかれないように、急いでついていく。


その時、遠くで子どもの声が聞こえた気がした。


「え?わ、っ!」


その声に気を取られて、足がもつれて、転んでしまう。ぬいぐるみを持った手を打ちつけ、少し擦りむいてしまった。顔を上げると、魔石を持った住人達は、すでに遠くの方へと行ってしまっていた。


ぼくは一番後ろを走ってたんだ。

気付いてもらえるはずもない。


「あ、待って……」


今走れば、追いつける。

でも――ヴァルドさんならきっと、声の主を放っておかない。


ぼくに何ができるかわからない。

でもぼくは立ち上がって、声のする方へと走っていた。




____




「まさか魔物が入り込むなんて。

アシェくん、無事に教会にたどり着いたかな……」


小さくため息をつき、誰にともなく独り言を発する。俺の名前はグラッツ・ミリアン。

この商業都市メルセバでちょっと変わったものを売っている、しがない露店の店主だ。


残る住人は残り僅かだが、魔石が足りない。

なので第二騎士団の人達が来てくれるのを待っている状態だ。


「あ、あれは……」


すると遠くからいくつもの人影が見えた。

先程とは別の第二騎士団数名と、大きな結界を張り、うちの露店の屋根の上を颯爽と飛んでいったカッコいい兄ちゃんだ。


「アシェ!待たせた……」


「カッコいい兄ちゃ――ヴァルドさん!

アシェくんはさきほど第二騎士団の方と、教会に向かいましたよ!」


心配そうな顔でアシェくんを探すヴァルドさんに、身を乗り出して声を掛ける。


「……そうか。無事ならいいのだが」


「教会で会おうと約束しましたので」


先頭に立っていた第二騎士団の男は緊張した様子だったが、きっと教会まで無事送り届けてくれたはずだろう。


「……」


「さすが第三の騎士団長ヴァルド・ノイシュタット。結界の質も申し分ないですね」


第二騎士団の男がヴァルドさんへと声をかける。


「……そんなことより、さっさと住人を誘導してくれ」


ヴァルドさんはアシェくんの姿が見えないのが、気にかかるようだ。


「魔石の範囲に入ってください。

移動します!」


第二騎士団に誘導されて、俺たちも移動することになった。何組かに分かれて移動し、俺たちが最後の組のようだ。


ヴァルドさんの結界が解かれる。

この大きな結界を維持しながら、魔物討伐。

負担は大きいだろう。


「あとは頼む」


「はい。ご協力いただき感謝します!」


第ニ騎士団の1人が敬礼すると、ヴァルド騎士団長は飛ぶように走り去ってしまった。


「行きましょう。私について来て下さい!」


ヴァルド騎士団長の背中を見届けながら、俺はアシェくんの無事を祈った。






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