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アシェはいらない子

※冒頭に少しつらい描写があります。



「アシェ!アシェ!」


「……は、い!」


階段下から聞こえる大声で、目が覚める。

お義母さんより遅く起きてしまった。

怒られる。

かぶってた布を急いでどかしてドアの外へ飛び出す。


「洗濯物!それから庭の草むしり!朝食もレオン兄ちゃんが起きるまでに作るんだ!早くしろ!」


「はい」


急いで階段を駆け降りる。

レオン義兄さんが早くしないと起きてしまう。

お湯をたくさん沸かして、野菜をいっぱい切って、鍋の中に全部入れる。

スープは最近作れるようになった。


「レオンちゃん。おはよう。

今日も早起きで偉いわね」


「ママ。お腹が減ったよ」


「アシェ。早くしな!」


「はい」


なべを急いでかき混ぜる。


「全く。もう10歳だろ!

男のくせに手際も悪いし、体力もないし……」


「はい」


これがぼくのいつもの朝。

手際が悪いっていつも怒られてしまう。


お義母さんは亡くなった本当のお母さんの妹。

義兄はぼくより5個上のレオン義兄さん。

お義父さんはいつの間にか帰ってこなくなって、どのくらい経つだろうか。


2人は、ぼくを引き取るのを嫌がっていた。

穀潰しなんて、引き取りたくないって。


でも身寄りが他に居なくて、置いてもらっている。その代わり家の家事は全部ぼくがやっているんだ。だってそれ以外、役に立たないから。


「また野菜スープ?野菜嫌いだって言ってんだろ」


レオン義兄さんにスープを持っていくと不機嫌そうに言われた。


「や、野菜たくさん食べた方がいいって、お義母さんが言ってたよ……?」


「ママ。そんなこと言ったの?」


「いいえ。

レオンちゃんが好きなものを食べなさい。

アシェ。早く違う物を持ってきなさい!」


作ったスープをどかされ、その反動でテーブルから零れ落ちる。


「は、はい……。ごめんなさい」


また失敗しちゃった。

他の物を、作り直さないと。


ぼくはテーブルから落ちたスープを急いで片付けて、キッチンへと向かった。


____



頼まれた洗濯物と草むしりが終わったら、お皿を洗う。


「レオンちゃん、今日も学院の制服がよく似合ってるわ」


「まあね。アシェもおれくらい優秀なら学院に通えたのにな。まあ朝食すらまともに作れない役立たずに、かける金はないか」


お皿を洗う手がぴたりと止まる。


「……うん。ぼくもレオン義兄さんみたいにたくさん魔力があったら良かったな」


「まあもう無理だろうけど。

行ってきます。ママ」


「いってらっしゃい。レオンちゃん」


レオン義兄さんは魔術学院に通っている。

ぼくよりも魔力もたくさんあって優秀みたいだ。


ぼくは逆に魔力がちょっとしかないから、通う必要がないってお義母さんが言っていた。

でも本当は魔法のことをもっと知って、勉強してみたい。

けど、レオン義兄さんのいう通り、ぼくにかけるお金はどこにもないんだ。


お母さんが遺してくれたお金は、ぼくの養育費だって言ってお義母さんが全部持っていった。

そんなのは当たり前だろうって。


「アシェ!」


「はい」


泡の付いたお皿を置いて、急いでお義母さんの元に向かう。


「トイレ掃除と、風呂掃除。家の掃除もちゃんとするんだ。出掛けてくるからちゃんと終わらせておきな」


「はい」


お義母さんはそれだけ言うと、出かけていった。なんだかオシャレな格好をしてたくさん化粧をしていた。どこに行くかは知らない。


でも居ない時の方が気が楽だ。

お皿洗いを終わらせて、残ってたスープを飲む。結局お義母さんもお義兄さんも一口も飲まなかった。


「美味しいのにな」


こくりと飲んだスープはちょっとだけ、しょっぱさがまざっていた。


____





頼まれたお掃除を全部終わらせて、楽しみにしていたことがある。

レオン義兄さんが居る時は怒られるから読めないけど、義兄さんの部屋にある物語の本。

続きが楽しみなんだ。


「魔物を倒したあと騎士様はどうなったのかな」


こっそり挟んでおいた栞から続きを読む。

これは本当にあった話が元になってるからびっくりなんだ。


誰も倒せなかった魔物を倒した、英雄と呼ばれる騎士様がいるんだって。


騎士様は魔力に頼らず、ただ剣ひとつで魔物を倒したんだ。

魔力がなくても、こんなすごいことができるんだって思うとぼくも、夢を見てしまう。


ぼくもこんなふうに――カッコいい騎士様みたいになりたいな。


玄関の物音で我に帰る。

こんな時間。お義母さんが帰ってきたんだ。

本をしまって急いで階段下に向かう。


帰ってきたお義母さんはご機嫌そうだ。

良かった。お掃除も全部終わらせた。

細かい埃もいっぱい取った。


ふと、お義母さんは足を止める。


「アシェ。これはなんだい」


なんだろう。心臓がドキッとする。

お義母さんが指を差した先には、野菜の入った籠があった。

今朝使った野菜の残りだ。

まだ使ったばかりで、新しい。


突然、頬に平手が飛んでくる。

な、なあに?なんで?


「レオンちゃんが食べたくないって言ってたでしょ!なんで捨てとかないんだ!」


「……は、はい」


泣くな。泣いたらもっと怒られる。

痛みで涙がこぼれ落ちそうだったけど、必死に堪えた。頬がじんじんと痛む。


明日の朝食は何を作れば、怒られないかな。


まだ食べられる野菜を全部、ゴミ箱に捨てながらぼくは明日のことを考えていた。



____






夕飯を用意して、自分の部屋に駆け込む。

ぼくは後で、残った物を食べるんだ。


ぼくの部屋は半分、お義母さんとレオン義兄さんの、もう使ってない物で埋まっている。


でも部屋があるのは嬉しいんだ。

唯一ここが1人でいられる場所だから。


この前ゴミ捨て場にあった本を取り出す。

お腹が空いたけど、本を読んでいたら空腹も忘れられる。


たまにレオン義兄さんが夕飯を全部食べてしまって、食べられないこともある。

今日はそうならないといいな。


薄い布を被って、本を読み進める。

前捨ててあったのは、結婚してるのに別の人を好きになるっていう話で、よくわからなくてあんまり面白くなかった。


でも今回の本は大当たり。

ぼくくらいの子供が冒険に出る話だ。

いろんな街を旅して、魔物を倒して、仲間を増やしていく。宝物も増えていく。

たくさんの人に、慕われていく。


「…………う、ぅ……」


なんでだか急に、涙がぽろりと溢れてきた。

さっき叩かれたところは痛みは無くなってきたのに。なんで涙が出るんだろう。


せっかく続きが読めるのに、どうしてだか涙が止まらなかった。



____



「……おい!アシェ!」


ノックの音で目が覚める。

泣いたまま眠ってしまっていたみたいだ。

珍しく小さいノックの音。

レオン義兄さんの声だ。


「なあに……?」


涙を拭いてドアを開ける。


「相変わらず狭くて汚い部屋だな」


「……こっちの半分置いてあるのはレオン義兄さんの物だよ?」


「チッ。そういう話じゃない。ちょっと来い」


「わっ」


レオン義兄さんに引っ張られて階段下に向かった。なんだか神妙な顔をしている。

なんだろう……?









ここまで読んで下さりありがとうございました。気になってくださった方、よければ応援お願いします。

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