観覧車に乗って消えた客
挿絵の画像を作成する際には、「Ainova AI」を使用させて頂きました。
近畿地方の複合商業施設では、奇妙な怪談話が囁かれていた。
目撃者によると、敷地内に併設された観覧車に搭乗した男性の一人客が時折消失するのだという…
真偽を解明する為、私こと鳳飛鳥は件の観覧車の行列に並んだの。
「御先へどうぞ。私の知り合い、後ろに並んでいるみたいなんで。」
そうして何組もの搭乗客を追い越させた私は、妙に青白い顔をした男性客の後ろに回り込んだの。
私の直感が正しければ、多分あの人は…
「二人連れなんです、私達!」
この時の声が余りにも大きかったのだろう。
その場の視線が私に集中したんだ。
私の直感の正しさは、ゴンドラに腰を落ち着けて早々に分かったの。
「よく分かったね、僕が幽霊だって。」
青白い顔の男は意外そうに首を傾げていたけど、少し考えたら誰でも分かる事だよ。
生きている人間が立て続けに消えたなら失踪事件として警察やマスコミが動くはずなのに、それらしい事件は見つからない。
だったら消失した男性客の方が原因だと考えた方が道理だよね。
「実は僕は…」
問わず語りを要約すると、この男性は彼女に振られて絶望した自殺霊らしい。
それで未練が積もった結果、二人で来た観覧車に現れるようになったんだって。
こうして話を一区切りさせると、自殺霊はぐっと身を乗り出してきたんだ。
「ここまで真摯に話を聞いてくれた女性は、彼女を除いたら君が初めてだよ。どうか僕と…」
いるんだよなぁ、人の親切心を好意と勘違いして必死で取り縋る連中が。
「生憎だけど私に冥婚の趣味はないよ。その代わり、貴方に良い相手を紹介してあげる!」
私は手にした木札を叩き割り、死霊を封印から解放したんだ。
「うわっ!何だこれは…」
「ウフフ…良い男だ事…」
顔の半分崩れた女性の霊に抱きつかれ、あの自殺霊もタジタジみたいだね。
「その人は婚活パーティーの道中で事故死したO Lさん。『彼氏を紹介してくれたら成仏する』って約束してくれたから、ここまで連れて来たの。」
「こんな若い男の子と一緒なら、喜んで成仏出来るわよ!」
御満足頂けて光栄だよ。
「いらっしゃい、浄土で可愛がってあげるわ。」
「えっ…あっ、そんな!」
抱き合った男女の霊が、星空を目指して上昇していく。
昇天の一部始終は、実に美しいね。
観覧車から望める夜景なんて、全く問題にならないよ。
それ以来、あの観覧車で幽霊が目撃される事はなくなったの。
幽霊同士の仲人が出来たなんて、私もオカルトマニア冥利に尽きるって物だよ。